第八十五話 僕は心が狭いのか
トビアスの話が本当だとしたらウズベラ一家の残党はボスの救出など一切考えていない様だ。それどころか兵士が護衛に集中するのを良い事に手薄になった場所を狙うらしい。
「あんたもそうじゃないのか……まさかこの護衛はウズベラ一家の者なのか」
「よせよ、俺がこんな無粋な真似をする訳ないだろ、それにな俺の直属の部下には違う場所を紹介したさ、今頃はその街に向かっているだろうな」
ようするにトビアスとは別の派閥が手っ取り速く金になる子供達を施設から奪おうとしたが、こうなってしまったのでトビアスにとってはいい迷惑なのだそうだ。
「そこまで分かっているのにあんたは此処にいるの?」
「言っただろ初仕事だって、だからここにお前らが参加すると聞いて嘆いたもんだぜ」
何処まで信じたら良いのか分からないが、信じる振りだけはした方が良さそうだ。
「いつ来るのか分かるかな」
「さぁなぁ、どうせ野営の時じゃないか、全く巻き添えには勘弁して欲しいよ、こんな事は依頼人にも言えないしな」
「どうしてよ、言えばいいじゃない」
「依頼人も半分程の護衛達もあの街の人間じゃないからな、俺の事は知らないんだよ、知っている人間には口止めしてるしな、そうなるとこの情報は言える訳ないだろ」
それだけ言うとトビアスは前の方に行ってしまった。
「ねぇあの男は信じられるの?」
「できる訳無いよ、だって俺を殺そうとしたんだぜ……参ったよな」
せめて商人達とは一緒に行動しない方がいいが、僕やラウラの意見など聞いてくれなさそうだし、そうなると残党とトビアスか……。
もっと情報が必要なので今度は此方からトビアスに近づく事にする。
「なんだい、まだ話があるのか」
「あのさぁあんたほどの力を持っている奴が残党にいるのかなって」
「そんな事かよ、いいか俺は特別なんだいる訳無いだろ」
そうなるとやはりこのキャラバンから離れた方が安全かも知れない。トビアスさえいなければ僕とスケルトンでどうにかなるだろう。
「ありがとう、それだけで十分だよ、じゃあね」
「待てよ、俺も思い出したんだが盗賊を倒すと臨時にお金を貰えるんだったんだ。だからさ俺は手伝ってやるからな」
今度は一緒に行動しようと言う事なのだが、やはりうさん臭さを増している。その事をどうやって伝えたらいいのか悩むが、全てはこの僕の説得力の無い身体が恨めしい。
少し嫌だったがトビアスと握手を交わして再び後ろに戻って行く。
「ねぇ敵かな、それとも味方かな」
「どうかなぁ~ますます分からないよ」
これが僕達だけだったら選択は難しくないが、僕達を単なる家出姉弟と思っているムズーリ達を説得するのは困難だし、もしかしたら怪しまれてしまうかも知れない。
悩んでいる内にキャラバンは街道を外れ見渡しのいい場所で野営をするようで、この馬車は扇型に並んだ中央に配置されたが、一番森に近い場所となっている、
僕は馬にエサを与えているハガレにそっと近づいた。
「あなたはどんな交渉をしたんですか」
「何の事だいレーベン君」
「一見して商人達の馬車は僕達を守っている様に見えますが、普通は盗賊は街道からではなく森から来ますよね、ですので最初に狙われるのはこの馬車になります。それに逃げようにも彼等の馬車が邪魔して同じ方向には逃げれませんよ」
敵が残党だとすれば元からこの馬車しか狙わないと思うが、それは秘密にしておく。ただ出来れば列の中に入れて欲しい。
「あぁゴメン、僕は忙しんだまたその話を聞くよ」
全く商人に交渉するつもりがないのか逃げるようにムズーリの方に行ってしまった。そして何故かハガレは馬車の影でムズーリに殴られている。
子供達はラウラが相手をしているので気が付いていないので僕も子供達の所に行く事にした。
「レーベン何やってんのよ、いいから食事の準備をしてよ」
「分かったよ、だったら並ばせてくれないか、もう準備は終わっているからさ」
商人達は僕達に構う事なく食事を始めているが、この場所だけあってお粗末な物しか口にしていないように見える。
僕は魔法陣の中からあの街の領主の館で仕入れたシチューの入った鍋を出し、更には柔らかいパンや果物など滅多に食べれない物も一緒に配って行った。
流石は領主が食べる物だけあり高級な食材なので子供達は興奮しながら食べ始めてくれた。
「あれだね、子供達は所属の壁を簡単に超えるんだね」
最初は獣人族の子供と人間の子供の間に壁のような物が見えていたけど、いつの間にか仲良くしていて此処には穏やかな風が流れている。
「それより向うを見てみなよ、私達の食事が気になるみたい」
「ほっときなよ、こっちの事を気にしない連中には分けてあげる必要はないね」
「あれっもう食事をしているのかい、、これから準備しようと思ったんだけどな」
ムズーリは僕達がもう食事をしている事に驚いたが、ハガレはその頬を赤くはらし、その顔は疲れ切っている。
何があったのか聞かないで彼等にも食事を分け与え、子供達は早めに馬車の中に入らせた。
商人達の護衛は信じられないのでスケルトンを出そうと思った時に、足音も無くトビアスが目の前に現れた。
からかっているのか知らないが、心臓の鼓動が速いのを隠しながら如何にも気が付いていた振りをする。
「やぁ見張りをしなくていいのかい」
「向こうは安全だからな、それより気が付かないのか、奴らが迫っているぞ」
「残党なのか」
「多分な、まぁ小遣い稼ぎに俺も手伝ってやるよ」
そう言いながら後ろから襲われたら僕は対処できるのか。




