第二十八話 僕はどうしたらいいのか
移動を開始して暫く経つが、この馬車の近くには護衛は近寄ってこない。それどころか少し離されてついて行っている。
隣にいるハガレはどのような交渉をしたのか知らないが、どうせろくでもない話し合いなのだろう。この事を気が付いているのか知らないがそれを告げに中に入ろうとしたら僕の手をハガレがしっかりと掴んできた。
「止めなよ、言ったところで何も変わらないさ、それにさ子供に不安を与えて良い訳無いだろ……君も子供なのにどうしてだ」
僕の見た目と態度が合っていないので少しだけ不思議に思っているようだ。
「僕の事はどうでもいいでしょう。それよりこれは何ですか、一緒に行く必要はありますか、この状況で野営をするんですよね」
「よさないか、後に聞こえてしまうだろ、確かに野営をするけど大丈夫だって、仮に盗賊がいたとしてもこのキャラバンをみて襲ってくる奴なんていないに決まっている」
ハガレは少しでも生まれてくる子供の所に早く帰りたいのだろう。その気持ちは分かるけどだからと言って少しでも危険があるなら僕は容認する事は出来ない。
「言い訳はもういいです。ただ僕なりにやりたいのでムズーリさんに許可を貰ってきますよ」
手を振り払って僕は馬車の中に入ると、周りに聞こえないようにムズーリさんに耳打ちをする。
「あの、この状況……」
僕がまだ確信にも触れていないのに僕を少し押して首を横に振る。
「いいんだよ、君は不思議な子だね。なぁ早く街に到着したいよね」
ムズーリさんもこの状況に気が付いていたようだが、あえて騒ぎにしないようにしているようだ。
「分かりました。ただ万が一の事が起こったらこの馬車から出ないようにして下さい。出来れば窓から外を覗かせないようにお願いします」
「何かあるのかな」
もう一度耳打ちして僕がスケルトンを生み出せる魔石を持っている事を告げた。
「それがあるから二人で家出してきたのか、けどそんな高級そうな魔石をもう持ち出しちゃ駄目だよ」
「家出? あぁそうですね、分かりました。あの、本当にお願いしますね」
「分かってるよ、怖がるかもしれないからな」
ラウラの設定を聞き流していたので忘れていたが、僕達の姉弟は家出の最中でこれから帰るところだった。
僕が子供達に見せたくなかったのをスケルトンのせいにしてしまったが、本当は僕の魔法を見られたくなかった。綺麗に倒す事が出来ない魔法を見てしまうと子供達がどのような視線を僕に向けてくるのかそれが心配だからだ。
それから僕はハガレの隣には座らず、ラウラの馬に飛び乗った。
「何だかおかしな移動になったね」
「まぁかなり不満はあるけど最初の予定に戻ったと思えばいいんじゃないかな、そんな危険な街道じゃないんだろ」
野営だけが気掛かりだがこの人数が牽制になっていると思うし、何とかなると思い始めていると、前から一人の護衛が僕達の方に下がってきた。
フードで顔を隠しているので変わった護衛だと思っていたが、近くによるとその護衛はゆっくりとフードを左手で外した。
口角を上げて僕とラウラの笑顔を見せてくるが、その顔を見た瞬間に指先から虫が這いあがって来るような感覚が走り、身体が震え始める。
その震えを押さえるように歯を食いしばり力を込めて杖をその男に向けた。
「よせやい、その杖を下げてくれよ、ほらっ見ての通り俺は手ぶらだぜ」
笑顔を絶やさず器用に手綱から手を放し両手を上げるが、僕が油断するとでも思っているのだろうか。
「いつから此処にいるんだ」
「ねぇ誰なのこのおじさんは、知り合いなの?」
「ちょっと待ってくれよお嬢ちゃん。俺はこう見えても三十なんだぞ、君とそんなに変わらないと思うけどな」
「やっぱりおじさんじゃない」
ラウラのせいでおかしな空気が流れているが、僕の目の前にいるこの男はウズベラ一家のトビアスだ。
「奪いに来たのか」
「あぁその事か、違うよ、俺はね護衛の仕事をしているに決まっているだろ。ちょっとこっちも訳有なんだよな」
「何だよそれは、幹部であるあんたがこんな事をする訳ないだろ」
「いやぁボスの処刑は避けられないからね、跡継ぎ争いが始まる前に抜けたんだよ」
「そんな言葉を信じられると思うのか」
僕にはどう考えてもお金になる獣人族の子供を狙っているとしか思えない。他の盗賊なら気にしないがこいつだけは駄目だ。せめてこの馬車から離れた所で戦えればいいのだが。
「怖いねぇ、それよりもさ君達はもう少し離れてくれないかな、その馬車は狙われているんだよ」
「何を知っているんだ。どうせお前の仲間なんだろ」
「あのな、冷静に聞いてくれよ。俺はもう一般人なんだ。その最初の仕事は綺麗に終わらせたいに決まっているだろ。だから情報を教えてやるって言ってるんだ。馬鹿なのか君は」
何でトビアスにこんな事を言われなくてはいけないのか知らないが、情報は聞かなければいけないようだ。




