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第八十一話 僕らしい結末

 トビアスの刃が僕の腹に差し込まれているが、深く差し込む前にその動きを止めた。


「何をした……」

「何だろうね、まぁ気が付かなければ良かったのに」


 僕の言葉が言い終わらない内にトビアスは剣から手を放し自分の手に魔法の影響がないのかじっと右手を見ている。


 勘弁してくれよ、もう少しで【腐闇】がトビアスまで届いたのにな。


 僕は何かあってもいいようにトビアスの視界に入らない場所で【腐闇】を作っていた。そして服の下で剣を【腐闇】で受け止めただけだ。


 まぁ刃が身体の中に入らないで崩れていくかもと期待したけど、ちゃんと身体の中に吸い込まれているのは残念だけどね。


 トビアスがあの見えない速度で刺したのであれば刃の中に【腐闇】を侵食させる事など出来やしないけど、余裕を見せてくれたが幸いだった。


「随分とせこい真似するじゃないか、変な魔法を使いやがって」

「浸食させただけだよ、ちゃんと見せてあげるよ、滅闇」


 たった今から【腐闇】から名前を変更してみた。何となくだけど僕の中で【毒闇】との差別化を図る為だ。


「これかよ、触りたくないな、怖いな~」


 【滅闇】は広範囲で広がって行くのではなく細長い闇が伸びていく。予想でしか無いが広げてしまうと威力が下がる気がするのでこればかりはどうしようもない。


「何だよ言葉の割には、楽しそうじゃないか」


 決して【滅闇】の速度が遅い訳では無いのだが、僕の魔法はトビアスを捕まえる事が出来ない。その腰にある予備の剣で本気で攻撃をしてきたらかなり不味い状況になってしまうが、まだ僕に隠し玉があると思っているのかトビアスは近寄ってこない。


 僕とトビアスの距離は微妙に離れているが、お互いに攻撃が可能な距離になっている。


「今度は何をするつもりなんだい。絶妙にその足の下に魔力を隠しているけど。僕には分かっているんだからね」

「これは単なるはったりだよ、だからそこまで警戒しなくてもいいのにな」


 僕のこの言葉には嘘はなく、ただ【煙闇】を作成していただけだ。奴が近づいて来ようとしたら一気にこの辺りを闇で包んで逃げようと思っていたが上手くいくかは分からない。


「どうだかな、坊主の行動や魔法がおじさんの俺には分からないんだよな、なぁもう終わりにしないか」

「どうやってだい。そもそも僕を逃がしたらあんたは立場を失うんだろ」

「この状況でも挑発してくるとはね……まぁいいさ」


 それだけ言うとトビアスは僕の前からあっという間に消えてしまった。僕は知らない内に懐に入っていた魔石をそっと投げてスケルトンを作成していく。


 これと一緒に戦えば何とかなったかも知れないけど作成している間に僕は殺されていたな。やはり魔法使いには前衛がいてくれないと駄目だよな。


 あ~それにしても眠いよ。



 不思議な事に目を開けると僕は宿の部屋に寝ているし、僕の手を握りしめながらラウラが眠っているので何だが現実離れしている様に思える。


 水を飲みたいのでラウラの手を振り払おうとするが僕には手を動かす力はないし、喉が張り付いているらしく声を出す事も出来ない。


 参ったな、早く起きてくれないかな。


「……まだ起きないのかな」

「どうだろうね、お礼を言いたいんだけどな」


 んっこの声は誰なんだ。


 声に導かれるようにいつの間にかに失っていた意識が現実に戻って行くと、僕を囲むようにしてラウラとビテック、そして見知らぬ子供達がいる。


「目が覚めたみたいね」


 ……あっ


「あれからどうなったんだ」


 今度は身体が動いてくれたので上半身だけ起き上がると、いきなりの事に子供達が驚いている。


「ちょっといきなり動かないでよ、子供達がいるんだからね」


 ビテックは分かるがそれ以外の子供達が誰なのか知らないけど、僕の為に料理をこの部屋に運び始めた。


 僕はそれを食べながら話を聞くと、スケルトンが僕を抱えながらこの宿の近くに来たが、当然の様に騒ぎになりラウラが聞きつけて駆け付けるまで騒然としていたそうだ。

 必死にラウラが謝ってどうにかなったのが三日前の事らしい。


 そしてウルブル一家の屋敷は全て消失してしまい。消火活動をした人々によって奴隷達も救い出されたが、契約書が全て消失したようで呪印も消えてしまったので奴隷達は解放されることになった。



 僕が中途半端にやった割には今回は上手くいってくれた。ただもう少しちゃんとした形で終わらせる事が出来なかったの少し残念だけど、まぁいいとしよう。


 

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