第八話 僕は少し理解した
この女性は誰なのだろうか、バルナバスの伝言ではアリアナさんという老婆に渡せと言われているので決して目の前にいる女性では無い。
「リューク、誰なの子の子は」
「私も良くは知らないんですが、わざわざアリアナさんを訪ねに来たらしいんだけど……違うのかい」
「そうなんですけど、僕が探しているアリアナさんは老婆らしいのですが……」
「リューク案内ありがとうね、後は私に任せてあんたは狩りにでも行きな」
その女性は僕の腕を取り、家の中に僕を連れて行くと直ぐに椅子に座らされたが、この状況が何なのいまいち分からない。
「あのっ貴方は誰なんですか」
「私があんたが探しているアリアナだよ、私はね闇属性のせいで歳が取りにくいんだ。いいかい、早く要件をいいな」
「本当なんですね、それでしたらマザーから手紙を預かっています」
マザーと聞いて、分からない様だったら見せるつもりはなかったが、目の前の若い女性のアリアナさんは僕から手紙を受け取ると真剣な眼差しで手紙を読んでいる。
アリアナさんが手紙を読み終えるのをだだじっと待っていると、ようやく読み終えたのか僕の方を向いて話し始めた。
「姉さんもあんたも色々大変だね、それよりあんたは真意を知っているのかい」
「あの、どういう事でしょうか」
「私の推測も入るが聞くかい」
「お願いします」
アリアナさんによると僕はこの帝国で禁止されているグレゴールという秘薬を飲んでしまったらしい。ただ何処からそれが出てきたのか分からず混乱してくる。
「僕はそんな秘薬なんか飲んでいませんよ、それに何の為に飲むんですか」
「いいかい、あの秘薬は魔力を増強する効果があるんだよ、ただし、副作用は色々あるんだが、その中の一つには死があって、殆どはそれで死んでしまうんだ。あんたはよく生き残ったね」
そう言われても僕は自らそんな秘薬を飲んだ記憶がない。もしかしたら誰かに飲まされたかもしれないが、僕みたいな平民に飲ませる理由が分からない。それに殺すのであればいくらでも簡単な方法があるはずだ。
「何だかよく分からなくなってきました。それになんでそんなものを僕なんかに飲ませたんですかね」
「これは私の勘だけど、あんたが目的じゃないだろうね、単なる巻き添えになったんじゃないか」
また話が分からない方に行ってしまった。僕は一体誰の巻き添えになったというのだろうか。
「全然想像がつかないですよ」
「いいかい思い出すんだ。あんたの周りにいるはずだよ、魔力がいきなり増えた奴や死んでしまった奴とかが」
僕は暫く考え多分そうじゃないかと思ったのは、僕の魔力が測れなくなった時とほぼ同じ時期にバルナバスの魔力が増えた気がする事と、同じ時期にその当時に友達だった男の子が急に死んでしまった事を……。
「その顔は思い当たる事があるようだね」
「……でも死んだ子は僕と同じ孤児だし、もう一人はその頃も成績が上位の貴族の子供ですよ」
「何だ。それならその貴族のせいで決まりじゃないか、どうせその子は長男じゃないんだろ、だったら単なる成績優秀で終わるより、断トツの優秀者になった方が家の為になるからね」
長男でなければ死んでも構わないというのだろうか、それを確かめるにはバルバナスに話して……僕に言える訳は無いし、彼は知らない方が良い。
「自分の子が死んでしまう可能性があるんですよね、そこまでしますか」
「殆どの奴が死ぬけどね、ただ死ななかったらいい事があると、その貴族は思ったんだろうね」
「それにしても……」
「ただね、あの秘薬の副作用は死では無いにしても必ず何かしらあるんだ。その子はどのような副作用が出ているか分からないが、あんたは属性が反転してしまったようだね」
「反転ですか」
「姉貴の推測だと、あんたは光属性だった可能性が高いってさ、それで反転して闇属性になったんだろう。ちなみにその姿は副作用では無くて闇属性を持つと成長が遅くなるという弊害によるものだよ」
僕の成長は止まっていない…………僕が光属性…………もしそうだったら僕は聖騎士になれたのに………………。
「この事は誰に言えばいいのですか」
「あのね、あくまでも憶測なんだから騒ぐのは止めときな、いいかい、その秘薬は誰もが手に入れられる物じゃないんだよ。その貴族はそれなりに力があるんだろうね、下手すると消されるよ」
マザーは僕に光属性を感じていたから水晶の検査を受けさせたのだろう。まさか反転してるとも知らずに……。
「闇属性の魔力なんて普通は分からないからね、姉貴がもっと早く私に相談してくれればあんたは辛い目に遭わなかったのにな……。まぁ私とは闇属性になった経緯が違うから気が付くはずは無いか」
とは言え、僕が闇属性と分かったから此処に来るように言ったのだろう。