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第七十八話 僕の新たな魔法

 まだ深夜には程遠い時間ではあるけれど、今日は闇が深く僕にとっては最高の夜となっている。表通りのど真ん中を闇に紛れて進む事が出来るが、浮かれない為にも道の端を潜って進む事にした。


 先程思いついたのだが今の僕の力なら人を操る事も出来そうな気がしている。ついでにウルブル一家の連中に実験に付き合って貰おう。それにもし操れなくとも作戦に支障はない。


 ビテックから聞き出した道を進んで行くと、道が入り組んでいるからなのかそれともこの辺りの治安が悪そうな雰囲気のせいなのか知らないが、ただの闇ではなく、そこに暗い感情が混ざっている様な気がする。


 昼間でも地上は歩きたくないな。


 路地からは揉めている声が頻繁に聞こえてくるので最初は戸惑ったが、今は単なる音楽としか思えなくなってくる。



 目的地である屋敷は黒塗りで窓が一切ない館なのでとても趣味が良いとは思えない。人が生活している様には思えないが、裏手を見ると倉庫が隣接されているし、通りからは見えないように窓も申し訳程度に付いていた。


 あの倉庫の地下だよな、それにしても良くビテックは此処から逃げる事が出来たな……さぁ本番だ。


 闇に潜んだまま倉庫の中に入って行く。もし倉庫の中が光で溢れていればいきなり弾かれてしまうが、中は薄暗くなっていたのでその心配は無駄に終わってくれた。


 1階はビテックの情報通りでこの中で奴隷の売買が出来るようになっている。何があったのか知らないが隠れやすそうな箱がかなり置いてあるので、これを利用して早速実験させて貰おう。


 僕は近くに置いてある椅子を蹴り飛ばし、急いで人目に着かないように隠れて誰かの到着を待ってみる。直ぐに足音が聞こえてきて奥の扉が開かれた。


「何の音だ。誰かいるのか……」

「また脱走者じゃ無いだろうな」


 二人の男が現れたので僕にとっては都合のいい人数だ。


 「さぁ僕の傀儡になってくれよ……操闇」


 杖の先から漆黒の小さな玉現れゆらゆらと一人の男の頭の中に入って行く。まだこの魔法が掴めていないのでどうなるか楽しみだが、僕が込めた願いは【絶対に動くな】だ。


 いいね、いいね。完全に動かなくなったな。さぁもう一人もやってみるか……操闇。


 あれっ


 あれれ。


 同じように杖に魔力を込めるが、杖の先にほんの少しも魔力が集まってこない。僕の魔力はかなり残っているというのに魔法を使える気がしない。


「おいっギース何かいたか……おいっ何ボーっとしてんだよ、ギースしっかりしろよ」


 僕の魔法にかかった男が全く動かないのでもう一人が不思議がっている。肩を揺すり始めたが、その男は僕の指示通り全く動かない。


 それより俺の魔力はどうなったんだ。魔法が使えなくなると困ったことになるぞ。


 バタッ


「あっおいギース、どうした」


 その男が倒れたと同時に杖の先に闇の玉が現れた。何となく察知してあの男を見ると、既に息を引き取った後のようだ。


 まさかと思うけど心臓すら止めていたのかな……死んだからまた魔法が使えるようになったとすれば、【操闇】を使っている間はその他の魔法は使えないのかな。


「う~ん……操闇」


 【何も話すな】との願いを込めて、必死に助けようとしている男に飛ばすとさっきまで叫びながら身体を揺すぶっていたが、今は無言で同じ行動をしている。


 んっ声が出ない事に違和感はないのか。


 【両手を上げろ】


 僕の頭の中の命令通りにその男は両手を何の違和感も無いように上げた。視線は死んでいる男に向き、何かを叫んでいるようだが無言で両手を上げている姿をみると、僕の身体に寒気が走って来る。


【そいつの事は忘れて僕の所に来い】


 その言葉で隠れている僕の所までやって来るがどういう訳か今度のそいつの目は焦点が合っていないどころか意識があるようにも見えない。


【僕の質問に正直に答えるんだ。この中には何人いるんだ】

「たくさん」

【何処にいるんだ】

「誰が」

【ここにいる奴らだよ】

「下とかあっちとか」


 あ~あ~ものすごくイライラする。まともに会話をしてくれたら楽なんだけど、こんなに端的な答えしか返ってこないとは、あ~めんどくさい。


 それでも試行錯誤して情報を引き出していると、段々とその男の身体が震えてきた。


【どうしたんだ】

「分からない。あ~あ~あ~あ~~~~~~」


 段々と声が大きくなり、痙攣したように身体が動き出した。


【静かにしろよ、それに怖いから止めろ】


 しかし僕の命令はもう聞いてくれず、更に大声を出しながら口から血を流し始めた。


「あ~あ~あ~~~~~~~~~あっ」


 口から流れている血の量が尋常ではなくなった時にその男は倒れ全く動かなくなった。ここまでするつもりは無かったし、何となく罪悪感が僕の中に生まれた。


「ん~ごめんなさい」


 これだけ大騒ぎすれば他の連中に聞こえるのも当然で足音が激しく聞こえてくる。【潜闇】で一気に地下に行ければいいのだが、不思議な事にそれは出来ないので僕の頭の上を駆け付けた連中とすれ違いながら地下へと続く階段に向かていく。





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