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第七十六話 僕が奴隷を始めて見た時

 ラウラはその子の事がかなり気になるようでずっと見ていたが、いきなりその子の方へ向かって行った。その子に近づいたラウラは何かを話すとその子は首を横に振りながら座り込んでしまう。


 それでもラウラはその子に視線を合わせるようにしてしゃがみ込み、優しく微笑みながら話すとようやく立ち上がったその子と共に僕の方へ寄ってきた。


「ねぇレーベン、この子に何か買ってあげてよ」

「あぁ分かったよ」


 何となく厄介ごとが舞い込んできそうな気がするが、ラウラのその心配そうな顔を隠しながら子供に接している姿を見ると断れなくなる。この先に何があるか分からないが僕はそれに対応していこうと思う。


 僕はオヤジの屋台で買おうと思ったが、この様子を見ていたオヤジや近くにいた者が串焼きなどを持ってきてくれた。


「あぁ皆さんすみません、ちゃんとお支払いしますんで」

「良いんだよそんな事は、それよりこの屋台の裏で食べさせろ、いいな」


 オヤジは怒っているようでは無く、ただ真顔で言ってくるのでその言葉に従い子供を屋台の裏にある台に座らせて串焼きを渡すと、両手に串を持ちながら貪るように食べ始めた。


「慌てて食べなくても良いんだよ、まだ食べられるようなら買ってあげるからさ」

「そうだね、もっと持ってくるよ」


 その小さな体のどこに入るのか分からない位にたくさん食べた後で、ようやく落ち着いたのか僕達に話し掛けて来た。


「有難うございます。僕は犬人型獣人族のビテックです。奴隷商人に連れられて此処に来たんですが思わず逃げてしまいました」

「やはりそうか、それでお前さんは無理やりここに連れて来られたのか」

「少し違います。僕は両親に売られました」


「ちょっと待ってください。奴隷って何ですか、この時代に奴隷何てありえないでしょ」

「おいおい、そうかお前は北の人間なんだな、いいか……」

 

 僕が暮らしてきた北西地区や北東地区なら奴隷制度はかなり前に廃止されたが、南の地区の一部はちゃんと合法として奴隷制度が残っているのだそうだ。


 僕とラウラにその説明をしたオヤジはそっとビテックの肩に手を置いた。


「これから辛い事があるかも知れんが、この街で働かされたらたまにはここに顔を出すんだぞ、少しぐらいなら食べさせてやるからさ」


 オヤジは優しさを見せながらビテックに奴隷商人の元に戻れと言っているようだ。だが、僕には納得がいかない。


「何なんですか、これはどうしようもないんですか、この子は子供なんですよ」


 僕より少し背の低いビテックが可哀そうで仕方が無いが、彼の手の甲には隠してあるが呪印があるそうで、契約者の書類を破棄しない限りこの街から出れないらしい。


「分かってるよな、悪い事は言わないから自分から戻った方がいいぞ、君は商品なんだから奴らも酷い目には合わせないだろうしな」


 オヤジが顎で指した方角にはかなりガラの悪い連中が周囲を気にしながら此方に向かってくる。その姿を見たビテックは震えながら隠れるように座り出した。


「ねぇどう見ても盗賊しか見えないんだけど」

「僕もそう見えるよ」

「おいっお前らもう少し静かにしろ、聞こえたらどうするんだ」


 僕はビテックを屋台の下に押し込めると、ちょうど奴隷商人の一人が目の前に現れた。


「いらっしゃい、何にしましょうか」

「悪いが客じゃないんだ。ただなこの辺りで亜人のガキを見なかったか」


 その言葉にオヤジのこめかみに血管が浮き上がってくるが、張り付いた笑顔を浮かべたまま首を横に振ってくれた。


「そうか、邪魔したな」


 その男は金も払わずに果物を手に持って他に行こうとすると、後から近寄って来た男にいきなり頬を殴られた。


「何をしているのかな、それじゃあならず者と変わらないじゃないか」


 その男はエサイア程では無いが長身の男で、体格もそれなりの物を持っているようだ。顔も殴り飛ばされた男とは違い清潔感のあるような顔をしているが、どことなく怖さを感じる、


「僕の部下が失礼な事をしたね、代わりに払うから許してくれないかな」

「勿論です。その男もここから逃げた訳ではありませんので」


 果物が箱程買えるような額のお金をカウンターの上にその男はそっと置いた。


「これでは多すぎるんですが」

「いいんだ、僕の部下が偉そうにしたお詫びだよ」

 

 オヤジはこれ以上は言わない方が良いと判断したのか、ゆっくりとお金を受け取り頭を下げた。


「有難く頂戴したします」

「そうだ、赤色の呪印のある獣人族の子供がいたら教えてくれよ、どうしてか意味は分かるよね」


 呪印の色に何か意味があるのか気になったが質問をする訳では無く、ただ男が帰るのを僕は見送ったが帰る間際に僕はその男と目が合ってしまった。


「坊や、君の声は俺には良く聞こえたよ、今回は見逃すけど次は無いからな」


 僕の目を見ながらそれだけ言うと、コートを捲り綺麗なサーベルをわざと見せつけながら笑みを見せてきた。


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