第七十五話 僕はラウラの機嫌を直したい
ラウラが蹴り上げた男は既に意識を失っているが、それでもまだ許す事が出来ないらしい。ラウラは目は怒りを帯びているのに口角は上がっていて顔の上下で感情が真逆のようになっている。
「あのさ、そろそろいいんじゃないかな」
「いやよ、こいつは私に抱きついだし身体を触ったんだよ、許せる訳無いでしょ」
その気持ちは分かるし、もしこのままそいつを殺したとしても罪にはならないと思うがラウラには人殺しをして欲しくない。
どうすればその怒りを和らげられるかな……そうだ。これなら。
「ラウラ、ちょっと思いついたんだけど、どうかな」
ラウラに耳打ちすると同意をしてくれたので僕はスケルトンを出現させ、そいつを裸にした後で街道から見える木に吊るして置いた。出来る事なら張り紙をしておきたかったがこいつに使うには勿体ないので止めた。
この後は誰かが助けてくれると思うが、こいつの悪事を知っている奴が発見したら殺されるだろうし、仲間が発見したら生還できるだろう。どうなるかは運次第だ。
「なぁこれでいいよね、それにさ、今度からは直ぐに魔石を出せるようにしておきなよ、あの小さなスケルトンでもあいつらなら余裕で対処出来たんだぜ」
「急に現れたんだから仕方が無いでしょ、そこまで頭が回らなかったわよ」
「分かったよ、ちょっと考えてみるよ」
まだ一つしか試していないので少し残念だがラウラにこれ以上何かがあると困るのでミフィス街を目指して行く。
まぁ威力が弱まった訳じゃ無いから慌てなくてもいいか。
◇
少し進むと街が見え、その先は暫く小さな村が続くようなのでちゃんとした宿泊るのであればこの街になるが、僕としては先に進みたいがさっきの事があるのでどうだろうか。
「あのさ、まだ早いんだけど、どうする、まだ先に進めるんだけどその先の街にはたどり着けそうにないんだけどね」
「そうなると泊まるだけしょ、今日は嫌な事があったからのんびりしたいな」
そこまでの事では無いと思うけど、そんな事を口にでも出してしまったらどうなってしまうかぐらいは想像がついている。ここは大いに同意してラウラの機嫌を直してもらうしかない。
「そうだね、街に入ったらいい宿の情報を仕入れてくるよ」
ラウラを街に入った直ぐの店で休ませ僕だけが情報を集めに行く。この街で一番の高級な宿を聞いたので二人でその宿に向かった。
そこは一見するとお城のような外観なのでラウラは躊躇したが、嫌な事を忘れさせるには贅沢をするしか僕には想像がつかないのでこの場所に決める。
ただ二部屋を借りるには予算的にも辛くなってしまうので相談のうえ一部屋になってしまうが、ラウラはその事は全く気にしていない様だ。
僕の事を信用してくれるのは嬉しいが、男として見られていない様で少しだけ複雑な気持ちを抱えてしまうが気にしない振りをする。
「ねぇ荷物を置いたら魔道具屋に行きたいんだけど」
「どうした、何か必要なのか」
「魔石を腰に付けられるようにしたいのよ、そうすれば直ぐに出せるでしょ」
近くの魔道具屋で相談をしたが、やはりこの魔石に手を加える事は難しいらしく、これからは布袋に魔石をしまうのではなく、胸ポケットにしまう事で咄嗟の場合にでも直ぐに出せるように心がけるしかない。
ラウラは残念がったが、街を散策しているとラウラが道の反対側を指さして興奮したように話しかけてきた。
「ねぇあそこを見てよ、あれって亜人だよね」
「帝国に亜人なんている訳無いだろ、顔がそのように……亜人だな、うわぁ亜人だよ」
僕達の視線の先には犬の耳と尻尾を持った亜人が歩いている。
ごんっ
いきなり僕の後頭部に衝撃が走り、目の前に光がチラついている。
「こらっ坊主、亜人なんてそんな言い方を大声で言う奴があるか、姉ちゃんもちゃんと注意しなきゃ駄目だろうが」
近くの屋台のオヤジが、顔から湯気が出そうな勢いで僕達に怒鳴って来る。
「ごめんなさい。知らなかったんですけど亜人って言ってはいけない言葉なんですか」
「知らないのかよ、亜人って言い方は貴族が獣人族を馬鹿にするために広めた言葉なんだよ、お前らはもしかして……」
「違いますよ、僕達は貴族じゃなくて単なる田舎者です。その言葉がそんな意味を持つとは知らなかったんですよ」
僕達の国はこの国では北西地区にあり、隣接する国は人間の国しか無いが、ここの南東地区の隣接する国は獣人の国と隣接している。
「まぁそれならいいけどよ、ただもう絶対に口にするなよ、彼等に聞かれたら只の喧嘩では済まないんだからな」
「そうですか、教えてくれてありがとうございます」
僕が素直に謝ったので、いきなり殴った事に罪悪感があったのか屋台で売っている串に刺した果物をタダで寄越してくれた。今回の事は僕達が悪いので断ろうとするがオヤジはそれでも押し付けてくる。
「いいから受け取れ、何処から来たのか知らないがこれは獣人国でしか採れない果物だ。ゆっくり味わって食べるんだぞ」
「有難うございます。ほらっラウラも受け取れって」
「ねぇそれよりちょっとあの子さどうしたんだろ、何かに怯えているようだよ」
ラウラの目線の先にあるあの獣人族の子供は何かに怯えているようで辺りを警戒しているように見える。




