第七十四話 僕は幻を見せて見た
旅を進めていくが、どうしても先程の魔法の見え方が気になってしまう。僕とラウラとでは見え方が違っているからだ。まぁそれにしても威力が上がっているようならこれからは杖を使う事も考えないといけない。
「ねぇどうしたの、ずっと黙り込んでいるじゃない」
「うん、他の魔法も杖を使ったらまた効果が変化するのかなって思ったんだよ」
ただでさえ、このところ魔法の効果が変化しているのに、これで杖を使うとまた効果が変わるとなると、もう何だか訳が分からなくなりそうだ。どこかで全ての魔法を試して見たくなってきた。
「そんなに心配だったら先に進まないで練習すればいいじゃない。ほらっ人目のつかない場所でやろうよ」
「それは嬉しいけど、時間がかかると思うよ」
「あのねぇ私は時間に追われていないの、レーベンがいいならやりなよ」
ラウラの言葉に甘えて街道を外れて川の側で試す事にする。
「ここなら街道から見えないよな」
「いいんじゃない。ただ変なのは川の中に入れないでね、暇つぶしに足を入れるんだから」
「はいはい」
最初に【潜闇】を試したが、杖があろうがなかろうが違いは分からない。まぁ強いて言えばほんの少しだけ動きが速くなっているような気がするが、狭い範囲の岩陰での実験なのでこれが限界だ。
「ちょっと止めてよね」
闇の中に身を潜めているとラウラの声がはっきりと聞こえてきた。問題が起こっている事には間違いないのだが、これが違いだと分かって少しだけ嬉しい。
にやけながら闇から抜け出すと、レイピアの効果も全くなく三人の男がラウラを囲み下衆な笑みを浮かべながらラウラに掴み掛っている。
「お前らその手を放すんだ」
大声を上げながら走って行くと、その男達が睨みをきかせながら振り返るが、その声の持ち主が僕だと分かると蔑んだように笑い始めた。
「おいおいどんな馬鹿かと思ったら随分と可愛らしい護衛なんだな、いやぁおじさんたちはどうしたらいいかね」
「おいっあいつも売れるんじゃないか」
「お~い、このお嬢ちゃんを助けたいなら早く来なよ、逃げるんじゃないぞ」
ラウラは必死に逃げ出そうとしているが一人の男がしっかりと腰を抱きかかえ、残りの二人が持っていた手や足を放して僕に向かって歩き出してきた。
どうしたら良いんだ。二人は良いんだけどもう一人がラウラに近すぎるな、被害を与えないためには……。
「試してみるか……幻闇」
杖の先から二本の線となった闇が二人の男の頭に吸い込まれていく。僕の身長程の闇が全て頭の中に入ると男達は斜め上を見ながら震えだした。
「おっおい、どうしたんだよ、何をやられたんだよ……いてっ」
驚いたおかげでラウラを捕まえていた手が緩んだのか、ラウラは踵でそいつのつま先を振んで痛がる間に逃げ出した。
「おっ幻闇」
そいつにも【幻闇】をくらわしていると先ずは最初の二人に異変が現れる。
「うわぁぁぁぁぁ、助けてくれ、頼む、頼むよ」
「ひぃぃぃぃぃぃ、あっちに行けよ」
先ずは二人の男が叫びながら逃げ出し、最後の男はその場で何も言わずに泣き出している。
ラウラは逃げ出した男のを気にしながら僕の所まで走ってきた。
「ねぇあれはどんな魔法なの」
「魔族がいるイメージを植え付けただけだよ」
「それでか、これは効果が一緒なの」
「う~ん、どうだろ、良く分かんないな」
イメージといっても鮮明なものを送ったのではなく、細かい部分は自分達で生み出しているのだと思う。僕には彼等が見えていたのが見える訳ではないのでこれしか解釈する事は出来ない。
「それでさ、あの効果はあのままにして置くの」
一応魔法は解除するのだが、逃げて行ってしまった二人はどうなってしまうのか僕には分からないが、目の前の男で判断するしか無いだろう。
「ちょっとどういう行動をするか分からないから下がっていて、解除?いや解放かな」
言葉と同時にあの闇が消えたことが何となく感じ取る事が出来た。逃げて行った二人の様子は知らないが、目の前の男は泣く事を止め、無表情のまま動かない。
少し経つと徐々に表情に感情が現れ、しきりに辺りを警戒し始めている。
「まだ見えているのかな」
「静かに」
ラウラを僕の小さな背中で隠しながらその男に近づいて行くと、僕の姿がようやくまた見え出したのか僕に焦点を当てている。
「あれは何処に行ったんだ。お前がどうにかしてくれたのか……」
そんな事を言われてもその男が何を見たのか分からないが、ここは乗るしかないだろう。
「どうだろうね、あれは僕の友達だと言ったらどうするんだい」
その言葉は思いのほか絶大だったようで身体を小さくしながら地面に頭を付けて再び泣き出してしまった。
「頼むよ、俺が悪かったから助けてくれよ」
「だってさ……あっ」
僕としてはこれで終わりにしても良かったのだが、ラウラは身体から湯気のような物を出しながらその男に近づくといきなり後頭部を踏みしめ、その男の意識が消えるまで蹴り続けた。
僕にはあそこまで怒ったラウラを止められない。




