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第七十三話 僕の魔法

 初老の男の馬車はこの街には入らずに先に進んでしまったので僕達だけでこの街に立ち寄る事になった。


「どんな武器が良いのかな、いいよねレーベンは決まっているもんね」

「まぁそうだね、僕の事よりラウラは狩りとか行った事あったっけ」

「ある訳無いでしょ、何で私が狩りをするのよ」


 そうかも知れないが、そもそもラウラは冒険者になっているのだから根本的にその考えは間違っている。討伐ができないと何時まで経っても階級が上がる訳では無いので何か使いこなせるようにならないと駄目だ。



 この街の武具店は専門店というより雑貨店のようで武具だけでなく生活用品も同じ場所に並んでいるので大した物はないが僕達には贅沢など言っていられない。


「どれにしようかな……私は色々試すからさ、レーベンは自分のを見て来なよ」


 杖が置いてある場所は店の奥の片隅で、誰も購入する人がいないのか何かが付与されている杖などはなく、ただの木の棒の様にしか見えない。


「坊やは杖を探しているのかな、この店に気にいるのがあればいいけど」


 のっそりと現れた老婆が杖を一緒に探してくれるが、見栄えの良い杖など此処には無いだろう。


「あの、軽くていかにも杖だと分かる奴でいいです」

「そうなのかね、それじゃあこれでどうだい」


 老婆が渡してきたのは僕の身長の半分しかなく、茶色の木の枝がねじれている様な代物だが確かに年季の入った杖の様に見える。


 どうせ腰に付けとくだけだしこれでいいかもな。


「これでいいです」

「そうかね、あのお嬢ちゃんも決まったのかな」


 振り返るとラウラは細身の剣を腰に下げて、人からの見え方を気にしている様なのであれに決めたのだろう。


「ねぇこのレイピアで良いと思わない」

「まるで騎士だな、けど使いこなすには難しいと思うけどいいのか」

「これには秘密があるんだよ」


 二人分をまとめて支払って店を出ると、いきなりラウラはレイピアを投げて寄こしてくると、受け取ったレイピアは見た目以上に軽かった。


「えっ、この軽さはありえなくないか、それがあの値段何て信じられないんだけど」


 そのレイピアは僕の杖よりも軽く、どうしてここまでの軽量なのか素材が気になって来る。


「良いでしょ、抜いてもいいよ」


 言われたように鞘から抜こうとするが、決して抜ける気配すらない。僕の力が弱いせいなのか……。


「あのさ、もしかしてこれって」

「そうで~す。刃なんてないんだよね。単なる子供の玩具だよ」


 ラウラは僕の想像を超えたことをしてくれた。


「それでいいのかよ、一応冒険者なんだろ、ちゃんとした武器がないといけないんじゃないか」

「今更何言ってんのよ、それに冒険者なんてたんなる肩書だからね、どうでもいいの」


 エサイアには聞かせたくない言葉ではあったが、まぁラウラらしくて良いのかも知れない。


「あのさぁ僕の杖はどう思う」

「汚い杖かな、まぁいいんじゃないの、試しに杖から魔法を出して見れば」


 普段とは集中する場所が違うが、何となく上手くいきそうな予感がする。


「試してみるか……煙闇」


 杖の先から出た闇は殆ど透明と思えるほどの闇でしか無いので、残念ながら僕には杖は合っていない様だ。


「ねぇ凄くない。あの時よりかなり変わったよね」


 確かに闇というより湯気のようだから変わったのだろうけど、こんなのが凄い訳がない。やはり僕は普通の魔法使いとは何かが違うのだろう。


「やはり杖は飾りだね」

「ちょっと何を言ってるのよ、私は本心で言ってるんだよ、あの時よりも漆黒の煙じゃない」

「何でだよ、湯気の様じゃないか」

「えっ……どうしてそんな風に見えてるの」


 ラウラの目はまるで僕を馬鹿にしているようではなく真剣そのもので、この感じは嘘などは言っていないのかも知れない。


「あのさ、ちょっと練習していいかな」

「その方が良いかもね」


 街を出て人目につかない所で【煙闇】を杖ありと無しで交互に出してみる。いくら試しても僕の目には杖ありだと湯気にしか見えないが、ラウラにはかなりの違いで杖有の方が漆黒になって見えるのだそうだ。


「何だかな、最近の僕の魔法が良く分かんなくなってきたよ」

「アールシュ様に早く見て貰った方が良いかもね」

「それしかないよな」


 この変化の原因はもしかしたらという事はあるが、杞憂終わって欲しい。ただ僕が運が良いのはこの状況を相談できるアールシュ様と指導を受けられることだ。


「ほらっ先に進もうよ」

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