第七十一話 僕とラウラのたわいない会話
領主からは形式的な謝罪の言葉を貰って、僕とキリアン総司令官は一緒に領主館を後にした。
「お金を請求すれば良かったのに、何故そうしなかったんだ」
「実は金庫室からそれなりのお金を盗んでしまったので、どうもそれ以上は……」
実は二日目の夜に金庫室を発見したので、ラウラの宿泊費と多少のお小遣いを盗んでいたし、毎日のように食堂から食べ物を盗んでいたのでこれ以上は気が引ける。
それに兵士が独房に入って来ない事を良い事に快適に過ごせる家具を魔法陣に入れて運んでしまった。今頃は兵士によって持ち込んだものを発見されているはずだが、もう僕の罪にはならないのでまぁいいだろう。
「やはり面白いな」
「あそこはもはや普通の宿よりもいい部屋になっていますよ」
「どうだ、アールシュ様の元に行かないで私の部隊に入らないか、いい待遇を約束するぞ」
冗談の様にも聞こえるが、少しだけ本気で誘っているようにも見える。
「皇帝も知っている話なので、それは無理ですよ」
「何だ、あの野郎も知っているのか、ったく面倒な奴だな」
皇帝をあの野郎と呼んだことは僕の胸の中に納めておこう。
「あの、僕はこれからどうしたら良いのですか」
「もう自由でいいぞ、アールシュ様はもう少し時間がかかるそうなので、観光しながら向かっても大丈夫だぞ、それとも部下に送らせようか」
「いいえ、もう大丈夫です」
今回の失敗の原因は僕が浅はかだったせいだ。もう少し慎重に行動すればこんな事には巻き込まれなかっただろう。
「まぁまた何かあったら連絡をしてくれ、何処の街でも私の名前を使ってくれていいからな」
清々しい笑顔と共に、迎えに来た馬車に乗ってキリアン総司令官は去って行った。僕は別の兵士がこの街にいる間は護衛してくれるそうなのだが、騎馬隊の数が多いので恐縮してしまう。
「レーベン殿、宿に到着しましたがこれからいかがしましょうか、次の街まで護衛しても構わないのですが」
「いえ、ここまでで大丈夫です。もう街を出ようと思いますので気にしないで下さい」
騎馬隊と別れて中に入って行くが、この光景を見ていた客の視線が突き刺さっている。僕みたいな子供にあれ程の騎馬隊が一緒にいたのだから異様な感じになっているのだろう。
ラウラの部屋をノックするが出てこないのでそっと扉をすり抜ける。するとラウラは昼間だと言うのに気持ちよさそうに眠っていた。
「なぁラウラ起きろって」
僕が肩を揺すると不機嫌な視線を送って来る。
「あのねぇ昼間は勝手に部屋に入って来ないでよ、もしかして何かを期待してんの?」
「何をだよ、それより僕がこの時間に此処にいる事に疑問は無いのかよ」
ラウラは目をこすりながら僕を見てくるが、何も気が付いていない様だ。その鈍感さが少し僕をイラつかせる。
「何よ」
「実はさ、もう解決したんだよね」
ラウラに先程までの事を話すと素直に喜んでくれた。まさかこんなにも早くて簡単に事が進むとは思っていなかったのだろう。
「やはり蒼玉の冒険者は手際がいいよな、かなりのスピードじゃないか」
「そうだね、それに直ぐ部隊を動かせるアールシュ様も凄いよ」
今回の事で僕に足りないものは世間を知らなさすぎると言う事だ。普通ならやはりこの街に入らなかっただろう。それにしてもあそこまでになるとは誰も想像できないと思うが。
「エサイアは一人で大丈夫かな」
「どうだろ、あいつは底なしの馬鹿だからなるようになっているんじゃない」
「単純な奴は強いのかな」
「中途半端に上手くやろうとするよりかはいいかもね」
出来ればもう少し柔らかく言ってくれればいいのだけれども、ラウラは確信を突いて来るので何も言い返せなくなってしまう。
どうせ僕は中途半端な知恵しか持っていませんよ。
「ねぇ拗ねてるの」
「拗ねてないよ、いいからもうこの街をでようか」
色んな事が重なったので、僕もラウラもあの魔石の事はすっかりと忘れてしまい、魔法陣の中に他の道具と一緒に紛れている。




