第七話 僕の旅は終わったかな
もう空が明るくなり始めているので村の外観が分かるようになってきた。村を囲んでいるのは隙間だらけの柵で囲んでいるのであまり意味をなしていない。
一応門の中に見張り台はあるのだが、門の扉が壊れているのか中途半端に開いたままだし、門番何て気の利いた者の姿もない。
今まで通って来た街や村は必ず中に入る時は門番に身分証を提示していたが、此処に門番の姿は無く、このまま入っていいのかどうか、ただ入口をウロチョロしてしまう。
「どうした坊主、始めて見る顔だな……ってお前、もしかしたら夜に一人で移動してきたのか」
村から森に向けて狩りにでもいくような恰好をした男が僕に声を掛けて来た。
「そうですよ、あの此処がクル……」
「この馬鹿野郎」
いきなり頭上に拳骨を落とされ、そこからの記憶は僕には無い。
「全くあんたって人は……まだ子……」
「いや、だってよ……」
僕の側で誰かが揉めている。喧嘩と言うより男性が女性に一方的に怒られているようだ。殴られた頭はまだ痛むが、目を開けると此処は何処かの家の中で、二十代後半の女性がさっきの男を怒鳴っていた。
「あの、すみません、此処は何処ですか」
「あぁ良かった。気が付いたのね、ごめんなさいね私の旦那がいきなり殴ってしまったそうで」
その女性は申し訳なさそうな表情で謝って来るが、その女性に隠れるように先程の男が気まずそうにしている。
「あ~あれだ、思わず殴ってしまったけどよ、お前もさこの辺りの子共だったら夜に街道に居ていいのか判断付くだろ」
「この子は冒険者なのかも知れないでしょ、だったら問題ないじゃない」
「あのなぁ、どう見てもこいつが成人しているように見えるか」
もう14歳の成人なのだが、どうせ信じてはくれないだろう。
「すみません、今までの旅で街道には何も危険が無かったので気が緩んでしまいました」
「そうなんだ、それよりご両親は此処にいる事を知っているのかしら」
「いえ、僕に両親はいませんので」
魔法学校では半分以上が孤児であったので珍しくも無いが、目の前にいる二人は明らかに失言をしたと思っているのか、少し目が泳いでいる。
「余計な事を言うからだよ、ゴメンな坊主」
「いえっ別に気にしないで下さい、それよりもアリアナさんという方はご存じですか」
失言を挽回できると思ったのか、アリアナと聞いてその女性は大きく頷いた。
「勿論知っているわよ、そうだ、あんたはお詫びにこの子を送ってあげなさい」
「えっ……そうだな……坊主、もう行けるか」
まだ頭が少しだけ痛むが、少しでも早くこの手紙を渡してしまいたい。その手紙に内容はアリアナさんによって教えて貰えるに違いない。
この大人の男女は夫婦で、男性の人はリューク、女性の人はエルシェだそうだ。ちょうど狩りに行こうとしてきた時に僕の事を見つけてしまってこうなった。
僕はこの村で暮らすのかそれとも違うのかは分からないが、生活費を得る手段を考えないと生きてはいけないだろう。
「なぁ坊主、あっ……レーベンか」
「別に坊主でもいいですよ、呼びやすい方で呼んでください」
この僅かな旅で、かなりの大人と会話をした様な気がする。魔法学校では僕に話し掛ける大人などマザー以外では殆ど皆無だったので、それだけでも楽しい旅だった。
「早速向かうが、なんで坊主はアリアナさんの事を知っているんだ」
「僕は知らないんですが、ただ信頼していた人からの最後の言葉ですので」
「あぁそうか……なんかすまんな」
リュークさんはまたしても表情が暗くなったので、僕の言い方が悪かったせいだ。
「あっ違うんです。その人は生きています。ただ何て言ったら良いのか分からないですけど、もう、会う事は無いと思っただけです」
「そうなのか、よく分からんが大変そうだな」
「色々ありますけど、楽しいですよ」
ここ数年はずっと魔法の事だけが頭に中にあったが、こうして旅をした事によって身も心も軽くなったような気がする。
まぁ思い出したくない思い出もあるけどね。
二人で歩いて行くと、村の中に小川が流れていて、その近くにある田園の側にある一軒の家をリュークさんが指で差した。
「ほらっ、あそこに見えるのがアリアナさんの家だぞ」
やっと目的地に到着するが、これから何が始まるのかと思うと少しだけ緊張してきた。
家に近づいたリュークは扉をノックするのではなく、大声を張り上げた。
「アリアナさ~ん、あんたにお客を連れて来たぞ、もしかして隠し子かい」
少しだけ待つとゆっくりと扉が開き、中から不機嫌な声と共に姿が見えた。
「朝から五月蠅いね、それに隠し子って何の事よ」
僕の前に姿を見せたのは決して老婆なのでは無く、エルシェさんと年齢が変わらない様な綺麗な女性だった。
この人じゃない。