第六十九話 僕なりにやってみる
宿の主人はもう眠ってしまっている様だったので、事務所からそっと紙などを拝借させてもらい、急いで手紙を二通書いた。
夜明け共にギルドに依頼として手紙を届けて貰う事にするが、これがどのくらいでルカス神官とアールシュ様に届くのかは分からない。
アールシュ様なら何とかしてくれそうだが、現在何処にいるのか正確に分からないのでそうなるとルカス神官に期待するしかない。僕が何を言い出すのか分からないと思ってくれれば、小物のルカス神官ならば何とかしてくれるかも知れない。
マザーにはこんな事に巻き込みたくは無いので今はこれで良いと思うしかない。
「ねぇこんな事をしないでこのまま逃げれば良いんじゃないの」
「そうだけどさ、仮にも領主だろ、難癖をつけられてお尋ね者扱いされたら面倒じゃないか、まぁ理由があれだからその可能性も低いんだけどね、ただ僕も少しムカつくからさ何か弱みが無いか探ろうと思うんだ」
それでも僕の身体を少しでも傷付けようとするなら我慢はしないけどね。
「大丈夫なの、魔力を封じ込める魔道具があったら大変だよ」
「そんなのあるのかな、もしあるのならもっと魔人に有利に戦えるんじゃないか」
それにここの領主は魔法の事をあまり分かっていない様だから、僕の対策など出来ないと思う。それよりも助けが来るのが早いか僕が自力で解決するのが早いかどちらになるのか少し楽しみだ。
「分かったけどさ、その代わりに毎日ここに来るんだよ、食料も用意しておくから」
「そうだな、だったら食堂に行こうかな、いやどうせだったら領主の館から盗むよ、じゃあ帰るからさ」
こうなったらあの牢屋を少しでも快適に過ごす為の物を館から調達してやろうと思う。
まずは僕の荷物を回収してから、厨房に忍び込み収納魔法陣の中に片っ端からしまい込んだ。更には事務所に忍び込んで手当たり次第に盗んで行く。偶然にもかなりのお金もあったのでそれも盗みラウラの元に戻った。
眠っていたラウラを起こし、今日の戦利品を見せながらラウラにお金を渡した。
「ちょっとやり過ぎじゃないの、騒ぎになるでしょ」
「僕の仕業だと気が付かないんじゃないかな、それよりこのお金で依頼料を通常より多くしておいてよ」
依頼料が高ければそれなりの冒険者が動いてくれるので手紙が早く届くだろう。どうせ僕の金じゃないんだ好きに使わせて貰おう。
「それじゃ今度こそ帰るね、また来るからさ」
闇に溶け込み急いで独房に戻って行く。出来れば此処を綺麗にしたいが今はもう眠りたい。
「……おいっ起きろ、何時まで寝ているんだ」
独房の扉を硬い物で叩きながら怒鳴っているが、小窓からは目しか見えないので何の怖さも無い。そもそも起こされても食事は与えられないのだから意味無いだろうに。
「あのっまだ寝ていたいんですけど、何かするんですか」
「そうだな……どうだ領主様に謝る気にはなったか」
「謝る訳無いでしょ、それにね、あの子には僕と違って才能が全く無いんですよ、どうすればいいんですか」
すると小窓から紙が落ちてきて、それを拾い上げると昨日より詳しい僕の情報が書かれていた。
「お前は何者なんだ。調べれば調べる程良く分からないじゃないか。二人いるのか」
「そんな訳ないじゃないですか、ただその意味をよく考えた方が良いですよ」
「どういう事だ」
「さぁ、ただこのままだと不味い事になるとい思いますがね」
良く分からないはったりだったが、僕の年齢がおかしいと思っている様なので更に謎を与えればもっと混乱するだろう。
僕がクルナ村で暮らしていた正確な時期を書いてあったし、選抜会の事も書いてあったので彼等にとっては僕は謎の存在になっているはずだ。
どうせなら皇帝と謁見した事やアールシュ様と繋がっていることも分かってくれれば良かったのだが、そこまでは調べられなかったらしい。
暫くすると独房の中までこの館に盗人が入ったとの情報が流れたが、僕を疑う者は現れなかった。あの二人を【潜闇】の中に入れてしまった事を思い出したので覚悟はしていたが、どうやらあの二人はずっと目を瞑っていたのかこの事件と僕を結びつけなかったのは幸いな事だ。
相変わらず食事は出なかったが、僕は気にせず魔法陣から食べ物を出しているし、毎日のように館を徘徊しているが全く成果は出ていない。
盗人の捜索で忙しいせいか昼間の僕に構う者はいなく、放置されたまま四日が過ぎて昼頃になって久しぶりに扉が開かれた。
「お前は何者なんだ。まぁいい。迎えが来たから行くぞ」
「どっちですか」
「どっちってどういう事だ? やはりお前は何かしたんだな」
僕は兵士の後を付いて行き、久し振りに陽の光に満ち溢れた部屋に入ると、そこには貫禄のある兵士が笑顔を見せていた。
「やはり元気そうだな、レーベン君、アールシュ様から連絡が来てね、迎えに来たよ」
やはりルカス神官は使えないな。




