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第六十八話 僕はこの街には入らない方が良かった

「凄く簡単な事さ、貴様の魔法を娘に教えるだけでいいぞ」


 領主の言った言葉は何処までが本気なのか分からないが、僕にとってはいい迷惑でしかない。


「あの、子供の僕から教わってどうするんですか、どこかの魔術師を頼って下さい」

「貴様の事は調べさせて貰った。よくあんな田舎に生まれでそこまでの魔法が使えるようになったものだな、いいかお前のやった方法を娘に教えてサンベルノ魔法学校に編入できるぐらいにまで引き上げるんだ。分かったな。これは命令だぞ」


 確かにこの見た目通りの僕が、独学であそこ迄の魔法を使えるようになったのであれば天才かも知れないが、その中途半端な情報しか得られないのがこの領主の限界なのだろう。


 そもそもあそこの入学条件は魔法が使えなくとも魔力が高ければ受かるはずだ。幼い頃の数年間は魔法の授業が無いのがそれを証明している。


「無理ですよ、僕と同じ属性ならアドバイス位は出来ますけど、それ以外は知りません」

「共通魔法があるだろうが、いいか、セシリアは我が家系の念願の強い魔力を持っているんだ。だからそれを伸ばしてあそこに合格させて見せろ」


 一度セシリアは入学テストを受けて落ちてしまったそうだ。その頃に比べて魔力は伸びたそうなのだがそれを僕に言われても困る。


 領主は更に机を叩き、唾を吐きながら僕に魔法を教えろと迫って来るが、その顔を見ても怖いとか醜いと言ったような感情が湧き上がって来ない。ただ早く時間が過ぎて欲しい。


「僕には無理なのでいいですか」


 僕だってアリアナさんがいなければ此処迄にはならなかった。そのやり方を教えても良いのだが闇属性であるはずのないセシリアに教えても全く意味がないと思う。


 それにテストの時に比べてどれぐらい魔力が強くなったのか分からないが、セシリアからはほんの少ししか魔力を感じられない。自分でも気付いているらしくセシリアは恥ずかしそうにしている。


「あのな、貴様はどうしてそこまで使えるようになったんだ。どこの学校にも通っていないお前には何かがあるはずだ。家庭教師を雇えるほどの金持ちでもないだろう」

「そうよ、なんで貴族の私が使えなくてあんたみたいな平民があんな魔法を使えるのよ、何かあるに決まっているわ」


 しおらしく見えたのでなるべくセシリアのプライドを傷付けないようにしようとしたが、もう構う事はないだろう。 


「僕にはあなたと違って魔力が強いからですよ、それもあなたと比較にならない程にね、ちなみにですけどあの魔法学校の下の連中でもあなたの何倍もの魔力を持っていますよ」


 セシリアの魔力を強くするのならあの方法があるけど、それは流石に言えない。


「おいっ貴様、娘の魔力が弱いというのだな、そこまで愚弄するのか」


 そんなに怒っても事実なのだから僕にはどうしようも出来ないし、一度試験に落ちたのだったらそこで気が付かないと駄目だと思う。


「事実です」

「もういい、おいっお前ら入って来い」


 領主が怒鳴りながら机をたたくと兵士が一斉に入ってきたので、嫌な予感しかしない。


「イーグ様、いかがしましたか」

「こいつを捕まえて置け、いいか私に従うと言うまで解放するんじゃないぞ」


 いやいやいやいや、それは大人気ないんじゃないですか。


「あの流石に拷問は……」


 あの男も拷問となると二の足を踏むようで僕の肩に手を置くが、連れて行くような真似はしない。


「従うと言うまで食事をさせるな、直ぐに値を上げるだろう」

「分かりました。ほら行くぞ」


 拷問と聞いた時は体の芯から冷えていく様な感覚があったが、たかが食事抜きと分かると急に気持ちが楽になって来る。


「あの、ラウラはどうなりましたか」

「あぁ、そうだな……」


 可哀そうだと思ってくれたのか、少しだけ話す時間をくれたあとで、僕は暗い牢屋の中に放り込まれた。


「いいか、変な真似をするともっと酷い事になるぞ、悪い事は言わないから領主様に謝って指示に従うんだ」


 扉が閉まり、その後は何かをされる訳でもなかったが、やはり他の牢屋には食事が配給されても僕の所には回ってこなかった。


 まぁどうでもいいけどさ。


 看守の数が少なるのを待ってから僕は闇の中に姿を消して宿に向かうと、部屋の中ではラウラが食料を用意して待っていてくれた。


「遅いよ、もっと早く来れたんじゃないの、ねぇこのまま逃げるの」

「なるべく穏便に終わらせたいからさ、手紙を書きたいんだよね」


 事を大きくしたい訳では無いけれど、こうなってしまうとそれ以上の力に頼るしかない。

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