第六十七話 僕とラウラは領主の館に行く
僕を案内してくれているこの男は今の所は大人しくしているけど、この前は僕を思いきり恫喝した男なので信用する事は出来ない。
「ねぇ何をしたのよ」
「一応僕が命の恩人になるんだけどな、貴族の娘だから感覚が違うんだろうよ」
「助けてあげてこれなの、貴族って常識が無いんだね」
二人して小声で話しているのだが、僕達の会話が聞こえてるらしく先程から咳払いがわざとらしく聞こえてくる。もうこの話題を避けた方がいいだろう。
「ここから中央地区になるから言動に注意するように」
あの男が振り返って言ってくる。この男もそして周りにいる男も今回は名乗ってきたが、あまりにも興味が無さ過ぎて誰一人として覚えてはいない。
やはりあの時の印象が悪いので、今後も余程の事が無ければ顔すらも直ぐに忘れてしまうだろう。
「あっこの近くにもいい武具店があるんじゃない」
「そうだね、この人達といけば足元を見られることも無いだろうしな」
この見た目の僕と若いラウラとでは仮にこの魔石が凄いものだとしても誤魔化されてしまう可能性があるが、騎馬隊が側に居ればその心配は減るだろう。
「あの、魔石を鑑定して貰いに行きたいんですけど、寄ってもらえますか」
先頭の男に声をかけるが前を向いたまま僕達を見ようともしない。
「領主様が呼んでいるんだ。そんな事を許す訳が無いだろ、いいな」
「あ~そうですか……」
勝手に呼び出しをして置いてこれは無いと思うが、僕の方が大人になって素直に従わないと面倒な事になりそうな気がする。
「見えてきたぞ、二人とも身だしなみは整えて置け」
まるで僕達がだらしないように言ってくるが、ここも我慢するしかない。
眼前に見える館はこの辺りの建物と比べると、やはり領主の館らしく別次元の建物のように造られている。
見上げるだけで首が痛くなる門が僕達の到着と共に開いて行くと、庭にはいろんな種類の花が咲いていて僕達を出迎えてくれた。
だが、このような花は森に入ればいくらでも見れると言うのにわざわざここに埋める意味が分からない。
「うわぁ~何このセンスの無い庭は、花が可哀そうだね」
「貴族だから直ぐ近くの森に生えている事を知らないんだよ、だから珍しい花だと思っているんじゃないか」
「よさないか、不用意な発言を控えろと言っただろ、それにここに生えている花は珍しい物ばかりなんだぞ」
ちょっとお怒り気味になってしまったが、どうみても珍しい花など僕の目には写っていない。もしかしたらクルナ村の近くにある森が豊かだったのだろうか。
どうでもよくなり黙って後を付いて行く。領主の仕事など僕には分かるはずも無いが、此処に連れて来られたと言う事はこの館で働いているのだろう。
広すぎる玄関を抜けて行くと、その先には曲線を描いて二階へと続く階段があり、1階には大勢の人間が廊下を歩いている。
「この奥にある執務室で領主様がお待ちだ。セシリア様にも連絡してあるからな」
「誰なの」
「助けてあげた二人の内の一人だよ、領主の娘だとは思わなかったけどね」
本当は平民を下僕としか思っていない様な子だと言いたかったが、そこは心の中に納めておく。
重厚な扉がある部屋の前まで連れて行かれ、その前にいた兵士によって扉が開かれ中へと促された。
部屋の中はもっと煌びやかなものに囲まれているのかと想像したが、広さこそある物のその部屋の中は整頓されていて不用な物はあまりないように見える。
奥に座っている男は扉が開いたというのに顔を上げる事はなく、一心不乱に手を動かしている。そしてその前にはセシリアが黙って椅子に座っていた。
「イーグ様、例の少年を連れて来ました」
ゆっくりと顔を上げたその男の年齢は三十代だと思うが、それにしても貫禄がかなり備わっている。体格も筋肉質とは思えないのに何故か威圧されてしまう。
「君達は下がってよろしい、そしてそのお嬢さんもな」
「はっ」
ラウラは不満そうだったが兵士達に連れられて部屋を出て行き、この中は三人だけになってしまったので何だか居心地が悪くなってきた。
「あの、どうのようなご用件でしょうか」
「…………」
「あの……」
「すまんな、話で聞いていたより子供なので驚いてしまったよ、その身体で良く倒せたものだな」
「魔法ですので体型は関係しませんから」
早く此処から帰りたかったが、その次の領主の言葉は予想外のものだった。




