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第六十六話 僕の身体

 僕は混乱しながらも馬上のラウラの腰にしっかり捕まっている。


 ……どうしてこうなったんだ。

 ……見た目通りと言う事は、体力は十歳以下なのか。

 ……何故、魔法が使えるのか。

 ……それに魔法も効果がおかしくなっている。


「ねぇ、元気だしなって、魔法が使えるんだから気にしなくても平気だよ、疲れているだけかもよ」

「ゆっくり眠ったじゃないか」


 百歩譲って体力がなくなった事はいいが、それよりもこれからもっと体力がなくなって行くのかが気になってしまう。この先どんどん衰えていくのならばこれほど恐ろしい事はない。


 僕の魔力が増えたように思えたのはそれは僕が衰えた身体能力が見せる幻なのか。


 どうしても元気になる事が出来ず、直ぐに宿を決め、出された食事を口に運びただ部屋の窓から外を見ていたが、それだけで涙が出て来そうになる。


「あ~~~~潜闇」


 この気持ちをどう表現したら良いのか分からないので闇の中に潜り込んだ。目的など考えずに進んで行くと、頭上の風景が今迄と比べて遥かにはっきりと見えている事に気が付いた。


 それに、人の足元で耳を澄ませると会話をしている声も聞き取れるようになっている。


 どういう事だ……もしかして身体能力と引き換えに魔力が上がったのか……そんな馬鹿な。


 これ以上潜っていたくなく、部屋にもどって水を一気に飲み干して、冷静に思い起こしてみる。


 思い当たるのは【毒闇】か、あれはかなり気持ち悪くなったけど解除すれば毒素も消えるようになったな。それに【炎闇】か、あれは中を燃やし尽くしても形を保ったまま操り人形の出来たな……可愛げが無い魔法だよ。


 どうしても考えてしまい、眠る事を忘れて思考の谷間に落ちていく……。


 気が付くと朝日が昇り始め、この部屋をはっきりとした明かりで満ちてくる。何気なくベッドを見るとこの部屋は僕しかいないはずなのに毛布が膨らんでいる。


 あぁまたスケルトンかよ、見張りに送り込んだのかな。


「もういいって……あっ」


 布団をまくり上げると、そこにはスケルトンでは無く半裸状態のラウラが丸まって眠っていた。


「あんたねぇ、いきなり何すんのよ」

「いやいやいや、どうしてここにそんな恰好で寝ているんだよ」

「だったら見ないでよ、それにちゃんと隠れているからいいでしょ」


 何故だか切れだしたラウラが僕に向かって近くにあった物を手当たり次第に投げてきた。


「止めろって、部屋を間違えた僕が悪かったよ」

「何言ってるのよ、元からこの部屋しか借りていないじゃない」


 その言葉で僕の頭がどんどん混乱してくる。


「えっ……それって……まさか……」

「あのね、何を誤解してんのよ、一部屋しか空いていないって言っていたよね、あんたも聞いていたでしょ」


 確かにそうだったかもしれないけど、僕はそれどころでは無かったので全く覚えていない。それにしてもこの状況をどうしたらいいのだろう。


「ほらっもういいでしょ、さっさと食べて魔石の店に行こうよ、それともこの街でゆっくりしたいの?」


 ゆっくりしたい事はないし、魔石を早く鑑定してもらって、僕の単なる気のせいだったら売ってしまいたい。


 食堂に行き、食事を運んできたご主人にラウラは話し掛けた。


「あのさぁ、ちょっと珍しい魔石を手に入れたんだけど、ちゃんと鑑定が出来るところはこの街にあるのかしら」

「心配しなくてもこの街ならいくらでもあるぞ、なんせ魔石の専門店のある位だからな、そうだな、その中でもいい店はな……」


 ご主人は直ぐに頭に浮かんだ魔道具屋を教えてくれた。その場所は冒険者ギルドの隣にあるそうなので今度こそ冒険者となっても良いのかも知れない。


 それでも魔石の鑑定が終わってからにしよう。あんまりゆっくりするとセシリアやその家に絡まれるのは嫌だから、何にせよ魔石次第だな。


 今日の予定が決まったし、お腹も満たされたので元気を取り戻して宿を出ると、あの騎馬隊の連中が僕達を待ち構えていた。


「お早うレーベン君、領主様が君を呼んでいるんだ。いいよな」

「良くこの場所が分かりましたね、良くは無いんですが連れも一緒でいいのなら大人しく行きますけど」

「あぁ勿論だ。遠慮なく付いて来てくれ」


 あぁ遠慮したい。


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