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第六十三話 僕はうんざりする

 この三人の中で一番体力がないのは認めたくはないが、それは僕だと思う。ならばもう好きなようにさせてもらう。


「二人とも、僕に捕まって目を瞑って下さい」


 僕の態度が気に入らないのか知らないが、かなりの強さで肩を掴んでくるのでもう少し弱めて欲しいが、それだと負けたような気がするのであえて気にしていない素振りをする。


「では行きますよ、潜闇」

  

 いつもの様に身体が沈んで行くが、やはり僕に捕まっている二人も一緒に闇の中に入る事が出来ている。


「えっ此処は何処なの」

「水の中なの」


「水では無いので気にしないで下さい。それより静かにお願いします」


 この中での移動なら体力で進むのではなく、僕のイメージで進む事が出来るので魔力は使うけど体力は何も要らない。


 それにしてもどうして僕はこんなにも体力の消耗が激しいんだ……まるで吸い取られるようだったな……。


 余計な事を考えるのをやめ、光がさしていない場所を選びながら進んで行く。何故だか知らないが二人も一緒に潜らせる事が出来るとイメージが浮かんだので実行したが、本当にいつの間にか出来るようになっていたようだ。


 ただ魔力の消費はいつも以上に抜けていく感覚はあるのだが、全体の魔力から比べると微量の様に感じる事が出来ている。


 そのままの姿勢で進んで行くと、光の壁が僕達の前に立ちはだかったので、もう森を抜けたのかも知れない。


「それでは外に出ますよ」


 壁に触れると弾き飛ばされたように地上に飛び出した。僕にとっては慣れた事だが、二人にとっては初めての経験なので地上に出た途端に座り込んでしまう。


「ここは……」

「どうやら街道に出たみたいですね、どうしますか、僕はこのままアシタカ村に向かいますが、あなた方はどうせ別の方角ですよね」


 侍女は自分より年下であるはずのセシリアを見た。僕としては侍女の方がしっかりしていると思うのだが、やはり貴族であるセシリアの意見の方が優先されるのだろう。


「変な魔法ですね、まぁいいでしょう、私達もアシタカ村に付き合いますよ」

「お嬢様、早く歩けば帰れるのではないでしょうか」

「無理に決まっているでしょう」


 二人を従えアシタカ村の方へ歩き出すと。遠くの方で砂煙が見え、その先端には僕のスケルトンの姿が見えた。そして少し離れた場所にはかなりの数の騎馬隊がスケルトンを追っている。


「えっ……どっちだよ」


 あの手紙を読んだ。村長が寄越したセシリア救出部隊の騎馬隊だとは思うが、少ない可能性としてスケルトンを討伐しようとしているのかも知れない。


 暫くすると、かなりの間をあけたスケルトンが僕の前に到着し、後から騎馬隊がやって来て、セシリアの前で先頭の男が馬から降りた。


「ご無事でしたか、アシタカ村の村長からセシリア様の場所を聞きました。私達はいくつもの盗賊団を討伐しましたがどれも外れで申し訳ありません」

「もうよい、変な話だがワーウルフの馬鹿な考えのせいでここまで人間として生きる事が出来たのです。盗賊より魔物の方が紳士的だと初めて知りましたよ」


 そのセシリアの言葉に騎馬隊の男達が泣き出したので何だか変なものを見ている様な気がする。


「あの、それでどうしてアシタカ村に向かわれるのですか、幸いにも私達がいましたからいいですけど、わざわざ辺鄙な村に行くよりも街に向かった方が衛兵がいますのに」

「それはですね、この者がベッソの街に行く事を拒否したからです。そうなると従うしかないじゃありませんか」


 その言葉を聞いた途端に男達の殺気を帯びた視線が僕に突き刺さる。


「おいガキっ、何でたかが平民の意見優先しなければならないんだ。お前の親に責任をとって貰わないとな」


 僕の事を子供だと認識しているくせに、どうしてここまで恫喝する事が出来るのか全く信じられない。だが、囲まれながら恫喝を受けていても何故か僕の心はさざ波も起こらない。


「親なんていませんよ、もういいですか、僕はワーウルフを討伐した報酬を貰いにいかなければいけないので」

「そういえば、このガキ……」


 騎馬隊に動揺が走り、ようやく僕が此処にいる理由に気が付いたようだ。


「もうよしなさい。早く街に戻りましょう」


 今回の事で僕は今後は貴族に関りを持たない方が良いと思い知らされた。僕は無言のままスケルトンの背に乗り、そのままは此処を離れてもらう。


「待ちなさい。いいですか、ベックの街に来る事があるのなら必ず私を訪ねて来るのですよ、よろしいですね」

「有難うございます。お言葉に甘えさせてもらいます」


 建前上だけで本気で尋ねる訳はないが、これ以上面倒に巻き込まれるのはもうごめんだ。僕はベックの街に立ち寄る事は無いだろう。


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