第五十九話 僕の戦い
あそこにいるのがワーウルフと盗賊だけだと思うと、ずっとここに来るまで抱えていた物が一気に解放されたように思える。
「さて、早速やりますか、あいつらは良く燃えるんだよな……炎闇」
この魔法も何か変化があるかも知れないが、今はいつもと同じように元盗賊を黒い炎が包み込んでいく。元盗賊は全く抵抗らしい抵抗をしなかったのでもう普通の人間の様に痛覚というのもを失っているのだろう。
さぁ始めようか。……んっどうしたんだ……あっ炎を飛ばしている……随分と軽快な動きじゃないか……。
【炎闇】を纏った僕の傀儡は今までより軽快で複雑な動きをしているが、これが人間ではなくなってしまった連中だから出来るのか、それとも普通の人間でもこの動きをさせる事が出来るのかを調べるには次の機会を待つしかない。
そうだっ感染源のワーウルフは何処なんだ。お前ら早く探し出してくれ。
「坊主があれをしたのかね」
いきなり背後から声が聞こえてきたので振り返ると、顔中を皺だらけにして怒りの表情になっているワーウルフが二足歩行で立っている。
「何の事かな、僕は子供だよ、意味が分かんないよ」
こいつを油断させるためならこの姿を最大限に利用させて貰うが、このワーウルフは僕の姿を正面から見ても一向にその表情を和らげようとはしない。
「お前は馬鹿なのか、姿形は誤魔化せてもその魔力は誤魔化しようがないだろうが」
ほぉ~やはりアリアナさんの言う通りに魔物でもかなりの知恵があれば魔人と同じように魔力を見れるようになるんだな。
直ぐに禍々しい魔力を僕にぶつけながら飛び掛かってきたが、その間にスケルトンが入って攻撃を防いでくれた。
「僕に手柄はいらないから、そのまま倒しちゃってね」
「おいっ坊主、何処に行くんだ」
ワーウルフに背中を見せて僕は盗賊達の村へ突入を開始した。
「言葉が分かる人はいますか~、助けてあげますよ~」
僕が【炎闇】に込めた指示は『人間以外を仲間にしろ』なのでまだ人間の心が残っていれば炎を移される事はないはずだ。
「あの……ここにいま~す」
傷だらけの子供が僕を呼んだので駆けつけて傷薬を塗ると、その子供は座り込んでしまった。
「大丈夫か坊や、君は一体何なんだ」。盗賊の子供なのかな」
「失礼な、私はミルソー家の娘でセシリアです。私だけ牢屋を抜け出したんだから助けてよ」
てっきり子供の男の子かと思ったが実は女の子だったらしい。それに家柄を言うと言う事は普通の市民ではなさそうだ。
話を聞くと、一月程前に盗賊に誘拐されたのだが、牢屋に入れられて数日もしないうちに此処にワーウルフがやってきたそうだ。
果たしてそれが幸運なのか不幸なのかは分からない。
セシリアに連れられて牢屋に行くと、一緒に誘拐された侍女が横たわっていた。
「大丈夫ですか、おい早く助けるんだ」
護衛にために連れてきた炎闇の傀儡に牢屋を壊させたのだが、あろうことか侍女に手を差し伸べたので【炎闇】を解除した。
てっきり中身の姿を見せるのかと思ったが、何故か炎と共に消えてしまっている。
えっどうしてだ。中身があるから動けるんじゃないのか。
まだ僕の近くには他の傀儡がいるのでその中身がどうなっているのか確認したいが、その興味よりも侍女を救う方が先だ。
「……ありがとうございました」
「大丈夫ですよ、もうすぐ終わるはずです」
スケルトンの姿は牢屋の側には無いが、まだ動いているのは感じられている。
どうして彼女達が感染させられなかったのか不思議だったが、感染源であるワーウルフがセシリアが貴族の娘だと言う事を知って何かに利用しようとたくらんでいた可能性がある。
「それにしても良く生きていましたね、食事とかも大変だったでしょう」
「それはワーウルフになってしまった盗賊が肉や野菜を運んできましたね、それを私が調理したのです」
お世話係として侍女も生かされていたようだ。それにしても感染源であるワーウルフはかなり知恵がありそうだ。
「まぁ何にせよ生きていて良かったですね」
「良い訳無いだろう、貴様のせいでやり直しじゃないか」
唸るような声が聞こえてきたので振り返ると、ボロボロのスケルトンを引きずっているワーウルフがそこに立っていた。




