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第五十七話 僕が嫌な役目をやるしかない

 スケルトンには魔獣を取り押さえるように命令をしてあるので大丈夫だとは思うが、それでも少しだけ心配してしまう。


 頼むよ、僕の期待に応えてくれよな。


 ズサッ~


 農場の中を走り抜け、スケルトンの元に辿り着くとそこではスケルトンとワーウルフが争っていて、スケルトンの四本の腕がしっかりと尾を掴んでいて、残りの二本の腕で殴っている。


 ワーウルフは必死に攻撃から逃れようとしているが、手の多さと体格差で勝負にもなっていない。


「言葉は分かるのかな……鞭闇」


 逃げ出さないようにワーウルフの身体を縛り、優しく声をかけるが、唸り声を上げるだけで全く会話をしてくれない。この個体が純正のワーウルフだとしたら討伐してしまえばそれで終了となるが、もし感染者だとしたらそうはいかない。


 彼、もしくは彼女は病に侵された被害者であって、その元となるワーウルフを討伐すれば人間に戻れる可能性が僅かながらあるので簡単に殺してしまったら取り返しのつかない事になってしまう。


 厄介だよな、ちゃんと対処しないとな。


「君さ、もう少し大人しくさせてくれるかな」


 僕の言葉を理解したスケルトンは、自分の拳が粉砕してしまう程の力でワーウルフの頭を殴り、三本の腕を失ってようやく気絶させる事に成功した。


 その気絶したワーウルフをスケルトンに担いでもらい、そのまま村長宅へ向かう。


 ドンドンドン。


「緊急事態なんですけど、起きて下さい」


 真夜中に年寄りを起こすには気が引けるが、今日は許して貰うしかない。


 ドンドンドン。


「レーベンです。起きて下さいよ」


 するとかなり眠そうで、意識の朦朧とした村長がゆっくりと扉を開けてくれた。


「何じゃね……」


 半分しか目が明いていなかったが、スケルトンに抱えられているワーウルフを見ると、一気に目を覚ましたようだ。


 その後ろには村長夫人の姿も見えたが、村長は夫人の目に映らないように背中で隠しながら後ろ手で扉を閉めて、僕達を隣の倉庫に連れて行った。


「そいつはまだ生きているのかね」

「えぇ生きています。それにこれが魔物なのかそれとも感染者なのかまだ判断が出来ません」

「そうか、村の者にも意見を聞かんとな……ちょっと待っていてくれ」


 村長は直ぐに小屋から出て行き、真夜中だと言うのにそれ程の時間もかからない内に、この村の男達がこの小屋に集まりだした。


「あんた、それはまだ生きているんだってな」

「だったら早く殺してしまってくれよ」

「そうだよ、俺達は死体を見れれば充分なんだぞ」


 村人は全く動かないワーウルフを見ながら好き勝手な事を言ってくるが、村長は何も言わずにまだじっと黙っている。


「村長、集まれる人間は全て揃いました」


 その言葉を聞いた村長は手を叩いて自分に全ての視線を集中させた。


「静かにするんじゃ、どうしてこのワーウルフを生かしておくのか知らんようだから今から説明するからの」


 この地域には十年以上もワーウルフの被害が出ていなかったので村の若者は全く分かっていない。

 ようやく村長の説明を聞いて、どうしてワーウルフを生かしているのかを理解してくれたようだ。


「あの、そうなるとまだ人間を襲っていないと言う事は人間の心が残っているのですか」

「そうだろうな、完全に心を奪われたら人間なんぞ食料としか思わんのだろうからな」


「あの、ワーウルフは満月の夜にだけ現れるんじゃないんですか」

「それは少しだけ違うな、満月の力は奴らの力が増すんじゃ。満月がやって来るたびに人間に戻る事は難しくなるだろうな」


 話している内に陽が昇り始め、ワーウルフの姿が人間に戻って行く。その外観から見るとあまりいい身分の男では無いようだ。


 しかしその男が目を覚ますと、再びワーウルフの姿に戻ってしまった。何度も話し掛けるが、もう言葉を理解していない様だ。


「もう駄目だな。この男はもう人間には戻らん。そのうち人間を襲い出すようになってしまうだろう。彼はもう魔物になってしまったんじゃ」


 このまま陽の光で人間の姿に戻るようであるのなら、神官に祈りによって回復する可能性もあったが、目の前の彼にはもう救いようがない。


 彼の魂を救うのであれば残された選択は一つしか無かった。


「残念ですが彼は僕が葬ります。皆さんは手分けしてワーウルフがこの近くに現れたと街や村に知らせて下さい。尾の毛を持って行けば信じるはずです」


 村人が走り出した後、僕は彼を苦しまないようにしてあげるしか無かった。




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