第五十話 僕の行く末
僕が幼いころからの憧れであった勇者アールシュ様が僕と二人だけになっている。そして、静かなこの部屋でゆっくりと話始めた。
「君はその年で勇気があるな……あぁすまん、見た目とは違うんだっけな」
「いえ、言われ慣れていますので気にしないで下さい」
クルナ村ではたまにだったが、村を出てからは子供扱いなど頻繁に起こっているので、今は余り気にしないようにしている。
「ただな、あの男は皇帝なんだぞ。この帝国で一番の権力を持っているんだ。もう少し考えた方が良いな」
「すみません。あの皇帝はなんだか好きになれそうもないのでつい……」
するとアールシュ様が目に見えない速度で僕の首元に剣先を突き立てた。
とてもでは無いが、これが引退する男の動きとは思えない。
「また不用意な発言をしたな、私が皇帝に心酔していたら君は死んでいたぞ、いいかね、簡単に本音を話すのは慎みなさい」
「すみません。アールシュ様は僕を助けてくれましたので……」
「これからは気を付けるんだね。敵は意外と近くにいるんだからな」
その後は穏やかに話が進み、僕はアールシュ様の生まれ故郷であるミフィスの街で少しの間暮らす事が決定した。
アールシュ様は僕の魔力制御が上手くいっていないように見えているそうだ。
そう言われてしまたら、指導を受けてみたくなってしまう。
まぁ皇帝の事もあるので僕はその選択に逆らえる訳はないのだが。
「私はバザロフに勇者の指輪を引き継がなくてはならんからその間は此処にいるが、君はどうしたい」
「そうですね、あまり此処にいると揉め事が起こりそうなので先に行っています。向うで仕事もしたいので」
「君は何をするつもりなんだ」
僕は魔法陣での商売の事を話すと、アールシュ様はその街で一番大きな武具店に手紙を書いてくれるというので、恐ろしいぐらいに順調にいきそうだ。
僕はアールシュ様と別れた後でその足でエレナのいる治療院を尋ねたが、残念ながら空振りしてしまった。
「あっお兄ちゃん、どうしたの」
僕が諦めて宿に戻ろうと歩き出した所、運良くエレナが歩いてきた。出来ればバルナバスも一緒に居てくれたら嬉しかったが、バルナバスは隊舎にいるそうなので僕には会う術がない。
「あのさ、僕は明日は王都を出ようと思うんだ」
「えっどうして……まだ終わってないのに……そうか、あんなの事になったもんね」
「あんな事……」
エレナは【腐闇】が原因だと思っているのだろう。
「まさかお兄ちゃんの魔法がああだとは知らなかったから驚いたよ、観客の中には魔族が化けていると思った人もいたようだしね」
「えっ……そんな風に思われていたんだ」
平和に過ごしたいからこの王都を出て行くのだが、変な風に有名になったのならなおさら此処を出て行きたい。
「まだ帰らないんでしょ、私に家で話そうよ」
「そうだね……」
家にの中で話を聞くと、僕達が下に降りてしまってから観客席は混乱をしていたが、特に詳しい説明は無かったそうだ。
「私はお兄ちゃんが闇属性だと知っていてもあの魔法には目を瞑りたくなったよ、観客席では失神した人がかなり出たみたいだね」
「そんなに酷かったかな」
いつもラウラからは僕の魔法を醜悪な魔法だと言ってからかってくるが、てっきり僕をからかているのかと思っていたが、実は本気なのだろう。
「ううん、ちょっと気持ちが悪かっただけだよ」
ラウラは僕に視線を合わせないので言葉通りとは捕えない方が良い。
「そうだ、あの後の会場は使えるようになったのかな」
「あぁあの液体ね」
初めは闘技場の回復に手間取っていたようだが、清掃の魔法を光属性が唱えると簡単に消え去ったようだ。ただ他の属性が魔法を唱えても変化は極僅かだそうだが。
「バルナバスにする返事は決めたのか」
「まだだね、暫く待ってもらうよ、どうせパーティに入るのだから結婚なんてしている暇はないからね」
それからはこれまでの事を話し、ただの幼馴染としての時間が過ぎて行った。
「お兄ちゃん、また会えるかな」
「直ぐでは無いけど必ず会えるさ、バルナバスに会えないのは残念だけど宜しく言ってくれ」
ほんの少しだけ勇者のパーティになるバルナバスが羨ましかったが、あの勇者の事を考えるとこれで良かったと思えてしまう。
気になるのがバルナバスの家族はこの状況を知ってどういう気持ちなのだろう。
どうでもいいか……。




