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第四十七話 僕はもう我慢出来ない

 この討伐は順番で行われるのではなく、同時に行われるようだ。僕としてはルートゥがどんな魔法を使うのか見て見たかったが、この四人と行動をするのであればそんな余裕はあるのか分からない。


「レーベン、俺達はなバルバナス程では無いが成長してるんだぜ、見てろよ、あそこを卒業した俺達の力を」


 まぁ倒してくれるのなら、それはそれで有難い。どうせこの会場の何処かであの神官たちが目を見張らせているのだろうから、僕は手を出す必要が無いならそれに越したことはない。


「それでは間もなくゲートを開けます。準備はよろしいですね」


 僕達の正面にある壁の中から激しい音が聞こえてきたので、あの向こうにゴブリンがいるのだろう。奴らが近づく前に全てを討伐する事は僕にとってはそれほど困難な事では無いが、ロンメル達は大丈夫なのか。


 此処に参加したのだからそれなりに魔法に自信があると思うし、あの魔法学校を卒業したのだからこの国でも魔法使いの中では上位なのは確かだ。


 ……けど、実戦を経験しないと本来の実力を出せるかどうか。


「キッッシャー」


 先に隣のバジリスクが姿を現した。その姿は禍々しくかなり興奮している様に思える。


「ちょっとあんなのと戦わせるの」


 確かに通常のバジリスクより体長は長くて恐ろしい姿に、こっちの敵では無いのに目の前の女性が委縮してしまっている。


「ミン、僕達の敵じゃないんだ。こっちに集中をしろ」


 四人はバジリスクに気を取られながらも壁からゴブリンが出てくるのを待っている。僕はその後ろ姿を見ながらその頭を叩きたくなってきた。


 何で魔法の準備をしないんだよ、姿を見せたら直ぐに撃てばいいじゃないか。あ~何だかムカついてきた。


「グゥゥゥゥ~」


 壁が開いたと思ったらゴブリンが全速力で走ってきた。何をされたのか知らないがそのゴブリンも目が血走っている様に思える。


「……貫け~」


 四人が四人とも自分の正面に魔法を放つと、確かに当たったゴブリンは倒れていくが数の暴力の前には意味がない。


「みんな、火で壁を作るぞ、前列を燃やすんだ」


 ロンメルが指示を飛ばすが、今更その勢いは止まらない。


「ウォール」


 名前は思い出せないが、痩せぎすの男が魔法を唱えると僕達とゴブリンの間に簡単には乗り越えられない土の壁が現れた。


 初めてのいい魔法だと思うし、他の連中も魔法の選択はいまいちだが威力はそれなりにあるので今からでも十分に立て直す事は出来るだろう。


「参ったな、思ったよりも数が減らないぞ」

「そうだね、壁を越えてきたらここまで直ぐだよ」

「どうしたらいいのか」


 悠長に話している時間は無いというのに呑気に議論しているので、僕はとうとう我慢が出来なくなった。


「何をしているんだい。壁の向こうにいるには分かっているんだからさ、見えなくても良いから魔法を撃ちなよ」


 向こうにとっては対処のしようがないのだからいい作戦だと僕は思うが、誰一人として撃ち込もうとしない。


「レーベン、それは余りにも卑怯じゃないか、私達は貴族なんだ。そんな見苦しい真似は出来ないんだよ」

「えっ…………」


 これから魔人と戦おうとしている人間がこんな事を言い出すとは思わなかったので思わず口籠ってしまう。


「そうよ、正々堂々と戦わないと選ばれる訳無いでしょ」

「どうでもいいけど早くしてくれよ、もう耐えきれない」


 壁がどんどんと薄くなっていき、壊れた場所からゴブリンがこっちに向かってくる。ロンメル達は一匹ずつ倒していくが、徐々に追い込まれ、先頭集団がもう少しでここまで来てしまうだろう。


 あ~あ、ちゃんと指揮する奴がいれば君達だけでも討伐が可能だったのにな。君達はゴブリンを馬鹿にし過ぎなんだよ。


 兵士達が僕達を助けようと飛び出してくるのが見えたが、僕は怖い思いは一切したくないんだ。


「来るな~、いいからそこにいるんだ。腐闇」


 目の前にいるロンメルをどかして手を前に出し、掌から闇を広げていく。僕の闇に触れたゴブリンはあっという間に身体を溶かしていく。そのまま闇を広げて行き。全てのゴブリンを闇で包んだ後で僕は闇を解除した。


「えっあれだけ残っていたゴブリンは一体何処に……」

「深く考えない方が良いよ、気持ち悪いから……」


 何故だか知らないが、今までなら塵の様になったはずだけど今回は液体に変化させてしまっている。液体に変化する速度は早かったので威力は上がっているが、その分、醜悪さも増してしまった。


 こうなってしまった原因は僕には全く分からないが、もしかしたらロンメル達の馬鹿さ加減にイラついたせいなのかも知れない。


 ただ僕達の目の前にあるゴブリンの水たまりは全てが液体ではなく、多少の塊が浮かんでいるのでそれがまた気持ちが悪い。


 どんな液体なのか気になったので落ちている石を投げ込むと、かなりの粘度の高い液体が波を打ち強烈な匂いを巻き散らかした。


 その匂いに触れたロンメル達はその場で戻してしまっている。


 そして、観客席には客が大勢見ているはずなのだが、何の声も聞こえてこない。


 まさかね……。




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