第四十六話 僕の選択した先
「みなさ~ん、よく聞いて下さい。今から二つに……」
遠距離型の対魔獣戦が始まる前に兵士から説明を受けているが、僕には興味の無い話なので聞く気にもなれない。
そんな事より早朝に戻ってきたエサイアが気になってしまう。
単独の優勝では無く、更に自慢だった探知能力も上には上がいると知ってしまったエサイアは一人でヤケ酒を飲んでいたようだ。
クルナ村では一番の剣士だったからね、実は本気で選ばれると思っていたんだろうな。
「どうかしましたか、他のみなさんは移動をしていますが」
「あぁそうですね、行きます」
気が付くと説明が終わって移動を開始しているが、僕はその二つの列のどちらに進んで良いのか分からないので適当に進むしかない。
どうせどちらに行っても後ろの方で隠れているだけなので気にする必要は無いだろう。左を選び、光が差した階段を歩いていくとそこは闘技場の中に出て、観客席との間には半透明の物で遮られている。そればかりか同じ物質で闘技場も半分に分けられていた。
「こっちに来たと言う事は僕達に協力をしてくれるんだね」
ロンメルが僕の姿を見て駆け寄ってくるが、ここではなくルートゥや魔法学校の連中は向う側にいるので彼は裏切ったのだろう。
「偶然だよ、それで君はどうしてこっち側にいるんだい」
「あれから考えてね、向こうにはルートゥ様がいるんだから単なる引き立て役に終わるだろ、危険かもしれないけど、選ばれるためには別れるしかないのさ」
饒舌に話してくるが、もし選ばれたらルートゥと同じパーティの仲間になると言うのにここで裏切っても良いのだろうか。
「まぁいいけどさ、それよりあまりにもバランスが悪くないか、向こうに大分人数が集まっているじゃないか」
此処にいるのはロンメルがいる四人組、そして弓使いが三人いるだけで、何故かそれ以外の人は向こうに行ってしまっている。
「そりゃそうだろ、向こうが相手をするのは巨大なバジリスクで、僕達が戦うのは数が多いとはいえゴブリンだからな、選ばれたいのならバジリスクと戦うだろうね、けど向こうにはルートゥ様がいる」
「向こうはバジリスクでこっちはゴブリンか、つまらないな」
「けどさ、こっちは単体では無くて百体いるんだぞ、あんなやつらもっといても簡単だけどね」
宮廷魔術師が睡魔の魔法で一網打尽に捕まえたらしいが、ロンメルも同じ戦法を使うのか、それとも自分の魔法に自信を持っているのだろうか。
それにしてもその数なのに、どうしてこっちに弓使いがいるのか意味が分からない。
「なぁあの三人はどうしてこっちを選んだんだろうな」
「向こうだと出番がないからだろ」
たとえそうだとしても、背負っている矢の数の事を考えると、こっちにいるべきでは無いと思う。知り合いでもないのに僕達を利用するつもりか。
「あのさ、君達はちゃんと作戦を考えているんだろ」
「当たり前だろ、先ずはファイヤーランス…………」
長々と説明をしているが、あまりにもお粗末な作戦なので、僕は後ろで見ているだけでは済まなような気がしてきた。弓使いはどうか知らないが、ロンメル達は実戦経験がほぼ無いのだろう。
彼等は魔法省で働いて、訓練では後方支援の魔法を放つそうだが、やはり狩りもした事がなければ盗賊とも戦った事が無いそうだ。
「あのさ、それでいいと思うのかい」
「ゴブリンだろ、冒険者の下の奴らでも倒せると言うじゃないか、だったら僕達にも楽に倒せるだろう」
「あのな、ここはそんなに広くないだろ、最初で倒しきれなかったら接近戦になるぞ、その対処は出来るんだろうね」
僕の考えを真剣に話たので弓使い達は兵士にお願いをして隣に行ってしまった。四人組の間にも動揺が走っているようだがロンメルがその空気を一変させる。
「今から変えたらパーティに選ばれないぞ、この人数でゴブリンの集団を倒す事が出来れば可能性が高くなるんじゃないか」
その言葉で四人は気合が入ったようだが、そもそもが間違っている。なぜならそれぞれから選ばれるなんてひと言も聞いていないからだ。
「あの、試合放棄したい場合はどうなるのですか」
「まさか選抜会に出た君達がそんな事はしないよね、まぁ諦めるのであれば私達が排除しますが、囲まれてしまった場合は間に合うのかは保証しません」
此処には十人程度の兵士しかいないが、彼等ならゴブリン程度は余裕なのだろう。その証拠に向こう側の兵士の数は此方の三倍以上いる。
まぁその事はいいが僕はこのまま闇に隠れてしまいたいが、後味が悪くなりそうな予感しかしない。




