第四十四話 僕に呼び出しがかかる
ラウラと共にエサイアを待っていたが、中々姿を見せないので先に宿に戻る事にした。
(バルバナスにも会えないだろうな、どうしてあんな真似をしたんだろう、僕の知っているバルバナスは自己顕示欲の強い男じゃなかったのに)
「レーベンのお友達は決まりだね」
「そうだといけどね、バルナバスがパーティに入ると人気が二分されるんじゃないか」
「気にしないみたいだよ、ほらっ」
ラウラが指を差した方を見ると、そこでは勇者とバルナバスが談笑をしている姿が見える。そしてその姿はまるで前からの親友の様だった。
「何だ、仲が良かったのか」
「だとするとあのやり方は決まっていたのかもね、だったら最初から言えばいいのに」
聖騎士とはいえ、決められたルールを勝手に変える事が出来たと言う事はそれなりの力が動いているのだろう。それに思い返して見るとルートゥも自分が選ばれる事を確信していた。
「それじゃあこの選抜会は何なんだ。只の出来レースなのかな」
「どうだろうね、全員は決まっていないんじゃないかな、良く分からないけど」
もしかしたら明日もこのような事が起きる可能性があるとしたら、僕の目の前でルートゥが何かをするかも知れない。
……僕はこの時は知らなかったがラウラの読みは当たっていて、この時の時点で決まっていたのはバザロフ、バルナバス、ルートゥの三人だけで、残りの枠はまだ決まっていなかった。
僕は今日はただ見ていただけなのに昨日以上に疲れを感じながら宿に戻ると、数人の衛兵が宿の前に立っていた。
剣呑な雰囲気が流れている訳では無いし、僕達が何かをした訳では無いので何も気にする必要は無いのだが、何となく前を通過する時は緊張してしまう。
「あの、君はレーベン君だよね、合っているかな」
「はいっ、そうですけど、どうかしましたか」
話し掛けて来たのは武骨な感じのする中年の男で、僕達を警戒させない為か笑顔を浮かべているが、その張り付いたような笑顔がなんだか余計に恐怖を感じさせてくれる。
「私は教会から派遣されたカーポだ。君を捕まえるとかではないので我々と一緒に教会に来てくれないか」
「えっ何か嫌なんですけど」
「そうかも知れんがこの命令はルカス神官なんだ。分かってくれるよな」
普通の人ならルカス神官の呼び出しとなれば喜んで行くのだろうが、僕に焼き印を押させようとした人物に一人で会いに行きたくはない。
「残念ですけど、僕は教会に出入禁止なんですよ、ルカス神官だけではなくフレット神官の命令が無いと行けないですね」
「君は何をしたんだ」
そうは言われてもただ闇属性だっただけで、僕はそれだけで出入禁止になったようなものだ。
「それも僕の口からは言えませんね、下手に口を滑らすと捕まってしまうでしょうから」
「そうか……フレット神官も絡んでいるとなると……どうすればいいかな……まぁいい、誰か確認してこい」
直ぐに衛兵の一人が教会に確認をしに行ったので僕達はこの場で待たされることになった。
「あの、周りの視線が気になるんですけど」
「すまないな、私としてもこの場を離れたいが、君は重要人物だと言われていてな……確認が取れるまでここにいてくれ」
「ねぇ疲れてるんだからせめて部屋に入らせてよ」
「あぁお姉ちゃんは自由にしてくれていいよ」
どんな意味で僕が重要人物になっているのか知らないが、多分、ルカス神官の僕に対する嫌味だと思う。
部屋に戻る事は許されなかったが食堂は許可されて、もう少しで全てが食べ終わりそうな時にカーポが食堂の中に入ってきた。
「立入許可を書いて貰ったぞ、ちゃんとルカス神官とフレット神官の連名となっている。これなら良いだろう」
ラウラは直ぐに席を立とうとするが、僕はラウラをもう一度座らせた。
「食事が終わってからでいいですよね、僕は信徒でも何でもありませんので」
食事をしている間に僕は冷静に考えられるようになったおかげで、神官の命令だからと直ぐに動きたくなくなった。昔の僕ならこんな真似は出来なかったが、今ならこれぐらいだったら可能だ。
「ねぇ神官様の命令だよ、早く行こうよ」
「関係ないよ、向こうが僕と縁を切ったんだからね、行こうとしているだけでも感謝して欲しいよ」
この言葉でカーポ達の態度がどう変化してしまうのか気になったが、彼等は表情を変えず、食堂の入口で僕達が食べ終わるのを待つようだ。
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「お待たせしました。案内をお願いします」
「それでは馬車に乗って下さい」
ラウラも僕に付き合う事になり、僕達は教会に向かって行く。




