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第四十三話 僕は今のバルナバスを知らない

 この日は変則型の実演もあり、その中には感知能力に特化した女性のを見てしまったので僕の中ではどうあがいてもエサイアが勇者の仲間に選ばれる事は無いだろうと思う。


「う~ん、優勝なんだよね、優勝なんだけど喜んでいいのかな」

「あいつ次第で良いんじゃないかな、もしもエサイアが喜んでいたらそれに乗って、もしも落ち込んでいたら慰めれば良いんじゃない」

「それしかないね」


 エサイアの対応が決まったところで僕達は次の試合を期待したが、壇上に上がった兵士が耳を疑う事を言い出した。


「え~本来は中距離型の試合で一回戦だけ今日行う予定でしたが、今から決勝戦を行います」


 まだ一つの試合もしていないのに決勝戦とは意味が分からず、僕達だけではなく、会場全体がざわざわしている。


「何だよ、決勝って意味が分かんないぞ」

「今から説明します。中距離型の決勝とは一人対全員です」


 またしても会場全体にブーイングが広がってしまった。それもそのはずで中距離型は勇者の仲間に選ばれる可能性が高いのでこんな雑な方法で決めて欲しく無いからだ。


 ヤジがかなり激しくなったところで勇者バザロフがこの混乱を治めるように立ちあがった。


「皆さん落ち着いて下さい。私なら一度に全員の動きを把握できますので仲間にふさわしい人物を見過ごす事は無いでしょう」


 その言葉に観客席から拍手が嵐のように聞こえてきたが、僕にはうすら寒さを感じてしまう。


「ねぇ勇者の好感度がどんどん上がって行くね」

「あぁ前もって決めていたんじゃないのかな」


 会場が落ち着きを取り戻した頃、兵士が合図を出すと中距離型の参加者が出てきたが、誰がその一人なのだろうか。


「待ってました槍の聖騎士」

「バルナバス様~」


 バルナバスが姿を見せると女性からの歓声は上がるし、一部の貴族は立ち上がって拍手を送っている。


「お友達は随分と人気があるんだね」

「こんなだとは知らなかったよ、それにしてもまさかあいつじゃないよな……」


 嫌な予感はしたが、僕のその予感は当たってしまい、一人で戦うのはバルナバスで三十人を超える参加者と向かい合っている。


「聖騎士って意外と目立ちたがり屋なんだね」

「いやっそんな……」


 こんなやり方で仮令(たとえ)バルナバスが勝ったとしても、相手をした者達はかなりのプライドを傷付けられてしまうだろう。昔は弱い立場の僕を守ってくれ、それなのにクラスの中心であり続けたバルナバスとは思えない。


「さぁそれでは始まります。なお、バルナバスは魔法を使用しないと宣言しております」


 光属性の何かを使うのだと思っていたが、兵士のその言葉でその可能性も消えてしまった。バルナバスはどうやって倒すつもりなのだろうか。


 戦いは始まったのだが、両者ともこれといった動きはせず、参加者たちもバルナバスを囲もうとはしない。やはりその他大勢扱いの事で怒っているのだろう。


 全く誰一人として動かないので兵士がせかすと、参加者は中央にいた男の号令に従って等間隔に広がり始めた。


「ちゃんと打ち合わせしているな、あれだとやりにくいぞ」


 完全にバルナバスを誘っていて、仕掛けたら一気に囲んでしまうのだろう。大勢の割には慎重な戦い方なので一部の観客から怒号が上がるが彼等は全く耳を貸そうとしない。


 するとバルナバスは木で出来た槍を何回か素振りするとその槍先を彼等に向けた。


「今から攻撃を始めます。命までは取りませんが自信の無い方は這いつくばって下さい」


 観客席にも聞こえるような大声で話し掛けるが、あまりにも傲慢な宣言の様に思える。


 勿論彼等は誰も這いつくばる事は無く、それを見たバルナバスはただ十字に槍を、彼等に向けて、素振りをした。


 ただそれだけなのにその先いた者達が次々と倒れていく。後は全員が倒れるまでバルナバスはその場から一歩も動かず繰り返しただけだ。


「おいっ魔法じゃないのか」


 一人の男が文句を言う為に立ち上がったが、誰もその意見に賛同する者はいない。


「ねぇどういう事なの」

「あれはね、槍の技で圧を飛ばしているだけで、魔法じゃなくて技なんだ。あれが本当の槍だったら身体が斬れていただろうね。それにしてもあれが出来るとは驚いたよ」


 直ぐに治療師たちが動き出そうとしたが、バルナバスが声を上げてそれを制すると木の槍が光を放ち、倒れている者達を包み始めた。すると倒れていた男達は立ち上がるだけではなく、怪我すらも全て治してしまったようだ。


「凄いね、一気に治療する事が出来るんだ。同じ広範囲魔法でもレーベンの魔法とは正反対だね」

「あのさ、前々から思っていたけどラウラは僕の事が嫌いなのかな」

「好きに決まっているでしょ、ただレーベンの魔法が気持ち悪いだけだよ」


 前半の言葉はもの凄く嬉しかったが、後半の言葉には絶望しかない。


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