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第四十二話 僕は見学している

 翌日になり闘技場に向かって行く途中で、勇者がバザロフに決まった事が発表されていた。初日でしかもメインともいえる勇者が決まってしまった事に文句がでるのではないかと思ったが、その声は小さくて直ぐに消されてしまうぐらいだった。


「なぁエサイアは見たのか」

「あぁ見たぞ、あんなのを見せられたら文句は言えないな、それに何と言っても金剛級だしな」

「いまいち金剛級の凄さが分からないんだが」

「あのなぁ、それ位は誰でも知っているぞ」


 バザロフの地位である金剛級とは冒険者の階級の中で一番上で、この国には一人しかいないそうなので、もしかしたら始まる前から決まっていたのかも知れない。


 会場に到着するとエサイアは控室に入って行くが、僕の遠距離型は今日は何もすることが無いので席の確保に向けて走り出した。


 まだ一般の観客は中に入る事が出来ないのでいい席は選び放題となっている。僕は席を確保した後でラウラを迎えに行った。


「良い席を確保したよ、今日は楽しめると思うよ」

「そうなんだ。昨日は酷かったからね」


 僕の確保した席にラウラは喜んでくれたが、僕はこの席を選んだことを少し後悔している。なぜなら僕のすぐ近くにはバザロフとその仲間たちが座っているのが見えたからだ。


「おめでとうございます。勇者さま~」

「バザロフ、バザロフ、バザロフ」


 勇者を発見した観客が歓声をあげて興奮し始めたので、バザロフは立ち上がって四方に手を振って声援に答えている。


「皆さん、これから私の新たな仲間を決める試合が始まります。是非とも静かに見守ってくれないでしょうか」


 その言葉だけで騒いでいた人達の殆どは静かになり、それでも騒いだ者達は会場を去らなくてはいけなくなった。


 バザロフは手を振っていた時、一瞬だけ僕と目が合って視線と止めたが、その表情にこれといった変化は無かったので記憶を思い出すとまではいかなかったようだ。


「随分と爽やかな新勇者だね、けどあれなんでしょ」

「あの笑顔を僕は忘れないよ」


 これ以上ここでは会話が出来ない。もし悪口を聞かれてしまったら大変な騒ぎになってしまうからだ。ただ、僕はバザロフが嫌いなだけであって恨むまではいっていない。結局は未遂に終わっているのだからそこまでの感情があるはずもない。


「あっ始まるみたいだね、エサイア~がんばれ~」


 ラウラは大声で声援を送るが、エサイアは聞こえていないのかそれとも緊張しているのか全く此方を見ようともしないで兵士の後ろを歩いている。


「かなり緊張しているな、近距離型は優勝しても厳しいからね、相当頑張らないと」

「どうして、優勝すれば良いんじゃないの」

「勇者も剣士だろ、それに指輪の力が加わるんだから只の剣士は要らないと思うんだ」

「な~んだ、それならもう駄目じゃない」


 ラウラはもう諦めてしまったようだが、エサイアには斥候としての力も備えている。ただ試合形式ではその能力を披露できないのが残念だが、優勝すればそのアピールの場を与えて貰えるだろう。全てはこれに掛かっている。


 あっという間に二試合が終わり、エサイアが呼ばれ機敏そうな男と対峙している。


「まるで大人と子供だな」

「身体が大きいだけかも知れないぞ」


 近くの席からエサイアの考察が飛び交っているが、それに反応している場合では無い。


「ついていないね、相性が悪いよ」

「そうだね、僕もそう思うよ」


 中央にいる兵士が二人に間に入り片手を上げると相手は一気に距離を詰めてきて、その木剣をエサイアの脳天に吸いこませようとするが、既にその場所にはエサイアはいなく、何故か攻撃を仕掛けた男が腹を押さえてうずくまっている。


「あれっあいつがやったの」

「そうみたいだね、まさかエサイアがあんなに動けるなんて知らなかったよ」


 あっという間の出来事ではあったが、観客の心を掴んだようで前の二試合が終わった時よりも激しい歓声が降り注いでいる。そしてバザロフも立ち上って拍手をすると、さらに歓声が大きくなった。


「勇者様ともなると人気が凄いんだね」

「中身が何であろうと勇者だからね」


 その後の試合も歓声が後押しをしたのか試合は過熱していき、その結果、かなりの怪我人がでるようになってしまったので、エレナや他の治療師が一生懸命に治療をしている。


 エサイアの快進撃は続き、決勝にでは【俊足のエサイア】とまでよばれるようになった。


 …………だが、決勝の相手が同じようなタイプで実力も似た様だったのでどちらも決め手に欠けてしまい、最初の登場が一番盛り上がると言う何とも微妙な決勝でしかも引き分けに終わってしまった。


「一応、二人とも優勝なんだね」

「実際は二人とも準優勝かな、お互いに対応力の無さが露呈してしまったね」


 僕がそう思っている事は、あそこで戦っている二人も感じているらしく、二人とも優勝と発表された割には何とも言えない表情をしていた。

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