第四話 僕は運が良いのだろうか
少し怖そうに見える冒険者だけど、折角僕に声を掛けてくれたのだから尋ねてみる事にした。
「あの、僕は冒険者の登録をしようと思っているのですが、何処に行けばいいのですか」
「坊やがかい、悪いけどいくつなんだ」
「14です。たしか13歳から登録出来るのですよね」
見た目は10歳以下なのだから驚かれるのはしょうがない。
「そうか、だがな此処は成人以上の冒険者ギルドなんだ。君みたいな若い子はこの奥にあるんだよ」
年齢によって冒険者ギルドの場所が違う事すら知らなかった。ずっと魔法学校の中だけで暮らしていたのだから世間にはうとくなっている。
「有難うございます。それで奥とはどの辺りなのでしょうか」
「俺達の帰り道と同じだから案内してやるよ、少し分かりにくい場所だからな」
「そうなんですか、助かります」
怖い顔とは違い、まさかこんないい人達に出会えるとは思ってもみなかったので、思わず祈りを彼等に捧げたくなったが、僕はその教会から追い出された事を思い出して少しだけ悲しくなった。
彼等は見た目は良くないけど、僕を怖がらせないために優しく話し掛けてくれる。大人に優しくされるのは随分と前の出来事なので思わず目頭が熱くなってきた。
「どうした坊や、もうすぐだからな」
「いえ、なんでもありません。それにしても本当に奥にあるんですね」
「そりゃそうさ、馬鹿な貴族の子供に騒がれちゃいけないからな」
いきなりの悪意に満ちた声に全身が震えてくる。どうしてこの僕が貴族の子供に見えたのか分からないが、あまりにも酷い勘違いじゃないか。
「何をするつもりなんですか、それに僕は貴族じゃないですよ」
「おいおいおい、つまらない嘘をつくんじゃねぇよ、ただのガキがそんな剣を持っているかよ、いいからその剣と金を全て渡すんだ。それで命は助けてやるからよ」
渡す訳にはいかないが、どう考えても体格に差があるし、向こうは三人で僕は一人しかいない。この剣を渡してしまえば助かるのかも知れないが、これはバルナバスの友情の証だ。こんな奴らに絶対に渡す訳にはいかない。
背負い袋と剣を胸の前で抱え、絶対の渡さないと態度で意思表示をする。
「あなた方の顔は覚えましたので、ギルドや衛兵に報告します」
「そんな事を考えられないようにしちまうぞ」
隙を見て逃げようとしたが、動く前に取り押さえられ無理やり奪われそうになる。僕は必死に亀の様に丸まる事しか出来ない。
「おいっいい加減にしろよ、怪我なんてしたくないだろ」
「嫌です、絶対に渡しません……誰か~ここに盗賊がいま~す」
蹴られ続けながらも大声で叫ぶが、誰も此処の来る者はいない。それでも僕にはこれしか方法はない。
「誰か~たすけて~」
初めは痛かったが、その内に痛みが感じられないどころかちょっとだけ気持ちよくなり始めた頃、ようやくこの状況を変えてくれるかも知れない若い男が姿を見せた。その男は僕と目が合うといきなり一人の冒険者を蹴り飛ばした。
この男は後に勇者バザロフと呼ばれる槍の達人である。
「てめぇ何しやがるんだ」
「何って仕事に決まっているだろ、害虫駆除もいいポイント稼ぎになるからね、そこに君、僕が助けてあげようか」
その男は僕に爽やかな笑顔を向けながらもう一人の男の顎を槍の石突で打ち砕いた。
「すみません、お願いします」
「はいよ、りょ~かい」
先程までは遊んでいたのか、僕がお願いした瞬間に男達の肩をた槍が貫いて行く。
「ぐわぁぁぁぁぁ、てめぇ何をする」
「無事に帰したらまた悪さをするよね、文句を言うなら殺すよ、それとも……」
バザロフはその掌を男達に向けると、三人の男達はその上に財布を置いてから逃げるようにこの場から立ち去った。
その光景を見ると何だかもやもやするが、助けてくれた事には変わりないので立ち上がって頭を下げる。
「助けて頂いてありがとうございました」
しかしバザロフは此方を一切見ないで、奴らの財布からお金を取り出し自分の財布に入れ替えている。
予想以上に入っているんだろうな、かなりにやけてるぞ、恩人じゃなきゃ目をそむけたくなるな。
「そうだ、これだけじゃ無いんだったな、君の事無視してごめんな、そうだな君は子供だし、あいつらは雑魚だったから一人四千ルピスかな、それに初回特典として全部で一万ルピスで良いよ、どうだい僕って優しいだろ」
「えっそれはどういう事ですか」
「嫌だな、とボケるのはズルく無いか、僕は仕事だって言ったよね、君が依頼したんだから報酬を請求するのは当たり前だろ」
世間一般では当たり前なのだろうか、魔法学校では困った人をみたら率先して助けろと教わったが、それは間違った考え方なのだろうか。
一万ルピスなら払えない額では無いが、これからの事を考えると払いたくはないが、それは僕の我儘なのだろうか。
「どうしたんだい。払えないのだったらその剣でもいいよ」
「それは出来ません……分かりました。お支払いします」
世間って冷たい世界なんだな。