第三十九話 僕を寄生虫と呼ばないで
自分の力でゴールを狙う事にした僕は、すれ違う人の誰もが敵の姿に見え、その度に隠れてはやり過ごすので思った以上に進みが遅い。
いい加減に僕は誰かの影に入ろうと思ったが、それなりに僕との距離を取って抜かしていくので影に入る事が出来ない。
あぁもう……【潜闇】
僕が地上で走るより速いので方向だけを頼りに闇の中を進んで行く。森の中ではあるけれどまだ昼間なので細心の注意をしながら進んで行く。
「うわぁっ」
注意していたはずなのに肩が光に触れて地上に飛び出てしまった。またしても闇に入ろうとするが何やら声が聞こえてくる。
「いいからその札を渡すんだよ」
「ふざけるな、それ以上近づくと攻撃するぞ」
「どうせはったりなんだろ、諦めろよ」
この会話の流れはやはり札の奪い合いが始まっているのだろう。
「鞭闇」
杖を向けている男にそっと近づいて、闇の鞭で近くにある木に縛り付けてみた。
「何だよこれは、おい、誰がやりやがった。俺は札なんか持っていないぞ、いい加減にしやがれ」
その男は【火球】で僕の闇を燃やそうとするが、魔力の差と属性の優劣の差が余りにもあり過ぎるので全く影響を及ぼさない。
「君には無理だよ、大人しくしていれば僕がゴールしたらそれを消してあげるよ」
本当はそこまでしなくてもある程度距離が離れたら魔法は解除するつもりだ。魔獣がいるこの森でこのままにしていたらいつ餌になるか分かったものじゃない。
「君がこれをやったのか、杖も無いのによくこんな……」
「そんな事はどうでもいいじゃないですか」
「そうだったな、すまん助かったよ、私も試験位で人を殺したくなかったからな」
何を言いたいのか良く分からないが、勝手に解釈すれば、俺は自分一人でも切り抜けられたがそうなると余りにも強すぎて殺してしまうといった感じだろうか。
「そんな事より貴方の順位はどれぐらいだと思いますか」
「そうだな、かなり迂回をして走ったから、それでも二十位には入っているんじゃないかな」
この人は迂回しているくせに、それでよく二十位なんて言えるな、僕はいつの間にか方向を間違って進んでしまった。
「それならもう迂回しないで進まないとまずいですよ、どんなに絡まれても逃げないと」
「そうだな、君の言う通りかも知れんな、悪いが先に行かせて貰うな」
それだけ言うと僕が進もうとしていた方向と若干ずれた方に向かって行く。僕は行きと同じように影の中に入らせて貰った。
余り頼りにならない男にしがみ付かなくてはいけないのは心外だけど、僕の身体能力だといつゴールに到着するのか分かったものじゃない。
頼むから敵が出て来ても迂回しないで真っすぐにゴールを目指して欲しい。まぁ瞬殺されたら乗り換えればいいのだけど、僕が黙って見ていられるとは思えない。
ここから上を見ていると、自分が何処を走っているのか良く分からないし、この人はかなり方向転換をするのでイライラしてくる。
いっその事飛び出してしまいたくなるが、彼以上に僕の方が道を知らないので我慢するしかない。
……頼むよ、合格の人数は決まっているんだよ。
僕の願いが届いたのかそれからは真っすぐに進んで行き、何やら声すら聞こえてきた。
「……とか……ぞ~……ぁ~だ……」
何を言っているのか分からないが、上の人がかなり動きが遅くなったので地上に出て見ると、やはり出発地点に辿り着いていた。
「どうかな、間に合ったのかな」
「あれっ君はさっきの……」
振り返ったその男は僕の姿を見ると、また駆けだしたので少しでも順位を上げたいのだろう。僕も追いかけて列に並ぶと少し前の方の男達が話している。
「もう少しだったのにな」
「並んでも意味無いか……」
既に30人がゴールしたのが分かったのか、あからさまに落ち込んでいる。それが周りにも伝わったのか列から抜けようとする者も出始めた。
「ちょっと、そこ勝手に抜けるなよ、もしかしたら君達にもチャンスがあるかも知れないんだぞ」
どうしてなのか分からないが、言われた通りに整列したまま待っていると、前の方から縄で縛られた男達が兵士によって何人も連れ出されている。
すると整列している僕達の札を確認すると直ぐに通過が言い渡された。
「君達は大丈夫だな、何で早く帰って来た連中は人の札を奪うのかね、勇者やその仲間になろうとしている者がそんな事をしていいのか分からないとはな」
文句を言いながら僕の数人後の男の札を調べると、その人も奪ったらしくその場で取り押さえられてしまった。
結局、ゴールに到着した者の半数以上が人から奪った札で、僕は到着時は40番以上だったのだが、正式な順位は13位となった。
誰が言い出したのか分からないが、その言葉に踊らされて札を奪いにかかった者の中には殺してしまった者もいて、彼等は選抜会を汚した者としてかなりの罪を償わなくてはいけなくなった。




