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第三十八話 僕は楽をする

 集合場所に集まったのは弓を持つ者と、杖を持つ者が半数ずついて大体200人位が集まっている。ちなみに手ぶらは僕だけだ。

 

 魔法使いで変則型に行かないという事は補助や回復よりも攻撃魔法が得意だからだ。そうなると僕の隣にいるルートゥも何かしらの攻撃魔法が得意のようだが、僕はそれを聞くより彼女からなるべく離れたい。


 僕の周りには人が密集しているので身動き一つできないのが厄介だ。


「皆さん、注目して下さい」

「潜闇」


 誰もがその声に注目した瞬間に影の中に身を隠しながら最後尾に進んで行くと、陽の光で自然と闇から追い出された。


 壇上では試験内容の説明をしていて、どうやら僕達は目の前の森の奥にあるイヤップ杉というところまで走らされ、そこで札を受け取ってからまた戻るだけでいいそうだ。


ただの体力勝負になると思っていたがどうやらそうでは無いらしく、僕に前にいる二人組の男が文句を言いながら会話をしている。


「何だよ、それなら狩人の奴が有利じゃないか」

「そうでもないぞ、俺達は待ち伏せをして札を奪えばいいんだ」

「……暗黙のルールって奴か」

「これで魔法使いにも平等になるだろう」


 これ以上この会話を聞きたくないので少しだけ離れたが、何だか不穏な空気が彼等を中心に流れ始めたように見える。てっきり純粋な試験かと思ったがそうではないらしい。やはり勇者と共にして魔人と戦うと言う事は綺麗ごとだけでは済まないようだ。


「それではもうすぐ時間になります。いいですか、自分の身は自分で守って下さいね」


 とうとう兵士は本音を言ってしまった。僕に目には森の中にいる魔獣よりもここにいる人間の方が恐ろしい。


「レーベン、お前さえ良かったら俺達の仲間にならないか」


 いきなり近くにいた四人組の一人が話し掛けて来たので驚いてしまうが、多分この青年達は……そういう事だろう。


「結構です」

「そんなこと言っても、この森でその身体は厳しいぞ」


 他の者も話し掛けて来たが僕はその場から離れる事にした。彼等は大人になり罪悪感を振り払うために僕を助けようとするのだろうけど、僕はそれに付き合うほど大人になりきれていない。


 そんな彼らみたいな魔法使いより、僕にとってはこの森をいとも簡単に攻略できる者が必要だ。


「それでは、行きましょうか」


 ちょっと待ってくれよ、まだ見つからない……あっいた。


「潜闇」


 背の低い僕など誰も注目していないのでそのまま闇に潜り、僕が狙いを付けた男の影に入る事に成功し、その影から僕が弾き出され無いように【鞭闇】で僕の身体と影を結んで後はイヤップ杉に到着するのを待つだけだ。


「先着30人ですからね、さぁ行ってください」


 一斉に走り出すと、やはり僕が見込んだこの男はかなりの速さで森の中を走って行く。僕はもうやる事がないし、この中は適温となっているので眠たくなってしまうが、僕も札を貰わなくてはいけないので眠っている場合ではない。


 この中はまるで水の中にいる様で、地上の声はあまり聞こえない。風景すら鮮明には見えないのだが、よそ見をしなければ問題は無いだろう。


 暫くすると速度が遅くなったので、そっと地上に出て見ると一番乗りで折り返し地点に到着したようだ。


「凄いですな、貴方は断トツじゃないですか」

「これぐらいは当然さ、全く生ぬるい試験だよ」


 息を切らしながら兵士と話しているが、帰り道もお願いしたいのでそのまま話していて欲しい。


「あのっ僕にも札を下さい」

「えっ」


 僕の身体が小さいのでその男の背中に隠れていたので見えなかったのだろうが、大袈裟過ぎる位に兵士やその男が驚いている。


「札なんですけど」

「あぁごめんなさい、これをどうぞ」


 受け取って直ぐに潜ろうとしたが、振り返るとあの男の姿は小さくなっていた。


「ちょっと待ってよ、すみませ~ん、聞こえてるでしょ~」


 こんな子供が声をかけているというのに、男はさらに加速して視界から消えてしまった。そこまで警戒しなくても良いというのに。


「君は走って来てはいないよな」

「そうですけど、もしかして駄目なんですか」

「そんな事はないよ、自分の力なら何をしても良いんだよ」


 そんな事だからこの先では札の奪い合いが始まろうとしているのに……。


「あの、それでゴールはどの方角ですかね」

「へっ」


 この場所は木に囲まれているし、自分の足で来たわけではないので正確な方向は僕は知らない。


 まだ本当の二番が到着していないので、それを待つか、それとも自分の足で帰るのか決めなくてはいけない。

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