第三十七話 僕は集合場所に向かう
選抜会の会場である闘技場に行くまでの道は人で溢れかえっているが、参加者は専用の通路で行く事が出来る。
「なぁラウラも参加者だと言えば楽に行けるのにな」
「そんな嘘をついたら捕まるに決まっているだろ、たまにお前は変な事を言い出すよな」
「もしかして緊張しているだろ」
いつものエサイアなら僕のたわいのない話に乗って来るが、そんな余裕が無いようだ。
「そうに決まってるだろ、だって周りを見てみろよ、強そうな連中ばっかりじゃないか、お前は良く普通でいられるな」
「そりゃそうさ、僕にとっては単なる力試しだからね」
この選抜会は主催は帝国だけど、がっちり教会も絡んでいる。だから僕がどんなにいい成績を残そうが、選ばれた勇者といくら相性が良くても僕が選ばれる事は殆ど無いと思っている。
そんな事に今更気が付く僕はどうかしていると思うが、それならそれで楽しめるという物だ。
会場に近づくと闘技場の中に入れるのは近距離型と中距離型を選択した者で、それ以外の二つは闘技場の外で集合させられる事になっている。
「この先から二手に分かれて下さい。いいですね、自分の集合場所をもう一度確認してください」
係の兵士が大声で叫んでいるので、僕達は此処で別れる事になる。
「じゃあ、また後でね」
「そうだな、なぁせめて明日に繋げようぜ」
ようやく本調子に戻ったのか、気合の入ったエサイアの背中を見送って僕は歩き出すと、気のせいか僕にかなりの視線が向いている様な気がする。
……仕方が無いよな、どうみても子供だからな。
「ちょっといいかい、君はもしかしてレーベンなのか」
一人の僧侶のような恰好をした男が近寄ってきて話し掛けてきたが、どこかで見たような顔をしているけど僕の記憶と一致する人物はいない。
「そうですけど、どこかで会った事ありましたっけ」
「同学年のエトだよ、それよりどうして君はあの時のままなんだ」
エトと聞いて昔の事を思い出すと、確かにその名前の子供と一緒に暮らしていた記憶があるが、僕の記憶ではかなりの早い段階で僕の存在を消してしまった奴だ。
「色々あるんですよ、それより何故話し掛けてくるのですか、僕の姿は見えていないのではないのですか、それに僕の経歴からあの学校が消されているので、話し掛けない方が良いと思いますが」
僕がクルナ村に着いてから少し経った後、ルカス神官の署名にの入った通知書が届き、僕の経歴は生まれも育ちもクルナ村となったそうだ。
「先生に睨まれたくなかったんだよ、別に直接何かをした訳じゃないんだ、もう忘れてくれよ」
「そうかい、都合がいい考えだね、……失礼するよ」
そんな都合のいい話に僕は付き合ってられない。彼は僕のこの姿の秘密に興味があるのかも知れないが、それに答える義理など無い。
僕は今まであの学校での事をあまり思い出さなかったけど、何処からか怒りが湧き上がってきたので僕は心の奥では僕を無視した連中が嫌いだったのだろう。
「ちょっと待ちなよ、私が悪かったよ」
「罪悪感を消す為に利用しないでくれますか」
わざと大声上げて此方の様子を伺っている連中にも聞こえるように言ってみた。この近くを歩いている全員が僕の事を知っている訳では無いので不思議そうな顔をしたが、一部の者は僕から離れるように歩き出す者もいた。
「すまなかった。あの時の僕達は余裕が無かったんだ……」
絞り出すような声でそれだけ言うと、エトは走って行ってしまった。つい言ってしまったが僕の態度は大人気なかったかもしれない。
それでも……。
「あなたは何を騒いでいるのです」
いきなり僕の横を歩きながら話し掛けて来たのは、この間の馬車から出てきたあの綺麗な女性だった。
「ちょっとありましてね」
「そうですか、それよりこの前はお礼を言っていなかったですね、まぁあれは護衛の訓練の一環だったのですが」
「えっあれは盗賊じゃ無かったのですか」
「実戦訓練です」
そんな事が僕には知る訳も無いし、だったらあの場で手助けしないように言ってくれたら良かったのにと思ってしまう。
「そうですか……僕は先に行きますね」
「警戒しなくてもよろしくてよ、私はルートゥですから」
私はルートゥですからって何だよ、ずっと僕を嘗め回すように見てくるがこの人は何が言いたいのだろう。
「僕はレーベンです」
「それが何ですの」
それがって言われても自己紹介じゃないのだろうか、何故だか寒気がしてきて全身が震えてくる。
「遠距離型の受付はこっちです。本人確認をさせて下さい」
集合場所から声が聞こえてきたので僕はこの機会を逃す訳にはいかない。
「僕は受付は向うなので失礼しますね」
「どうしてかしら、私もよ」
……一人になりたい。




