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第三十六話 僕は選抜会の事を知る

 エレナは治療師として選抜会に行く事が決まっていて、バルナバスとは初日の夜に二人で会う事になっているのだそうだ。そこに僕は勿論の事、エサイアやラウラも連れて来てくれと言われてしまった。


「ねぇ棄権出来るか一応聞いてみるんだよ」

「分かったよ、駄目だとしても無茶はしないさ」


 僕は急いで宿に戻り、階段を駆け上がる時に女将に呼び止められた。


「坊や、お兄さんとお姉さんは食堂にいるよ」


 今度は姉弟設定だとは知らなかったが、訂正するのも面倒なのでそのまま食堂に行くと、エサイアとラウラが呑気に酒を飲んでいた。


「いよぉどうだった。友達には会えたのか」

「会えたけどさ、そんな事より明日が選抜会の初日だってさ、知らなかったろ」

「はぁ~何を言ってるんだ。そんな事は知っているに決まっているだろ」


 僕が真剣に焦っている姿が面白いのか、ラウラは目に涙を溜めている。


「もしかして知らなかったの、普通それ位は気になるのに……勢いで登録するとこうなるんだね」

「あぁそうだよ、だけどね棄権しようと思っているんだ」

「お前、それは絶対に言うなよ、大変な事になるからな」


 エサイアは焦って説明をしてくれたが、どうやら勝手な棄権は罪になるそうで簡単には許してはくれないそうだ。


「ねぇ、その様子だと明日は何をするのかも知らないよね」

「俺とは集合場所も違うんだからしっかりしてくれよな」

「えっ一緒にするんじゃないの」

「お前な、書いてあっただろうが、せめて読んどけよ」


 子供の頃の夢に触れられると思って少し浮かれていた。それに参加するのが目的で会って本気で勇者や仲間になろうと思っていないのがいけなかったのだろう。


「あのさ、全く読んでいないんだよね」

「しょうがねぇな、俺が説明してやるよ」


 参加者によって特技が違うので大雑把に力を発揮できる距離で分けられている。近距離型、中距離型、遠距離型、そして変則型の四つだ。


 そういやそのような事を聞かれたような気がする。……遠距離と言ったよな。


 初日は身体能力が試されるらしく、大部分は初日で落とされてしまうらしい。そして翌日からは模擬戦闘が始まりその中で誰もが認めた者が勇者となり、その勇者の特性を軸として仲間が選ばれるのだそうだ。


「身体能力かよ、それだけで落とされたらたまったもんじゃないな」

「まぁ不服がある者には救済として技を見て貰えるけど、余程の事じゃない限り復活は難しいらしいいな」

「ふ~ん、【毒闇】でも見せればいいのかな」


 僕は本気で言った訳じゃないが、ラウラもエサイアも僕を睨みつけてくる。


「絶対にダメに決まっているでしょ」

「そんな事をしたらアリアナさんに言うからな」

「冗談に決まっているだろ」


 あの洞窟の事を知っている二人には冗談だと聞こえなかったようだ。まぁ僕は身体能力で落ちたら諦めるとしよう。せっかくなので手を抜くつもりは無いが、それで駄目なら諦めがつく。


「レーベンはね、ろくでもない魔法しか使えないんだから変な事を考えたらいけないんだよ」

「ちょっとそれは言い過ぎだぞ」


 ラウラの毒舌が酷いのでエサイアが窘めてくれる。


「ごめん、言い過ぎたかも」

「いいよ、身体能力の試験で落ちたら諦めるさ、どうせこの身体じゃ受からないだろうしな」

「まだ分からないんだから、そんなこと言うなよ、それより楽しもうぜ」


 エサイアは何処まで本気で参加するのか知らないが、楽しもうとしているのは確かだ。


「けどさ、初日を通過したら模擬戦闘だろ、僕には無理だよ」

「人間相手ならそうだけどな、魔法で戦う人間は対人戦では無くて対魔獣だぞ」


 そうなると僕は魔獣と戦う事になるのだけれども、それはそれでやる気が出なくなる。


「魔物は人間に直接被害を出してくるから駆除するのはいいけど、魔獣をただ殺すのはちょっと嫌だな」

「それもあるけど、観客がいるんだからそれも考えないとね」


 ラウラは僕の魔法が嫌いなのかも知れないけど、どうも偏った意見しか言ってこない。僕は何かしてしまったのだろうか。


「お前らさぁそれは明日通過してから考えればいいだろ、それより本番は明日なんだからもう寝ようぜ」


 エサイアの提案で僕達は部屋に戻って行く、


「なぁラウラの事をあんまり悪く思うなよ、あいつはお前が心配なんだよ」

「何をだ」

「お前の事を知らない連中が闇魔法をみたら怖がるだろ、それにもしかしたら攻撃的になる奴もいるかも知れない。そんな連中からお前を守りたいんだよ」

「僕は子供か」


 確かにラウラの気持ちは有り難いが、あまり年齢が変わらないのだから保護者目線は止めて欲しい。

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