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第三十五話 僕とエレナの時間の流れ

 僕の知っているエレナは食事など作った事は見た事は無いが、あれからそれなりに時間は過ぎているのだから当たり前なのかも知れない。


「凄くおいしいな」」

「嬉しいな……それでお兄ちゃんは……」

「これを食べ終わったら話すよ」


 自分の事を話すのは少し照れくさかったが、僕が闇属性になってしまった理由や魔法が使えなかった理由、そして現在は使えるようになっている事と、村の仲間と王都にやって来た事を話した。


「そうだったんだ、私にはよくわからなかったよ……」

「仕方がないさ、エレナが何を聞かされたかは知らないけど、闇属性になったから僕はあそこを追い出されたんだ。まぁあのままあそこにいたらまだ魔法は使えていないかも知れないけどな」


 僕の話はこれ以上は何も無く、次はエレナが話す雰囲気になっている。


「あの……先ずは今まで手紙を書かなくてごめんなさい」


 涙を浮かべて謝ってきたが、僕に手紙を書くなどとはあの学校に居たら出来なくても仕方のない事だろう。村の名前だけで送るのだから僕の手に渡らず送り返されたらエレナの立場は悪くなってしまう。


 そして、卒業してから書こうと思ったそうだが、今更だと思われてしまう事が怖くて書かなかったらしい。


「別にいいけどさ、それよりエレナがあそこで働いている事が信じられないよ、何かあったのか」

「あのねお兄ちゃん、何て言って良いのか分からないけど、魔法学校が私に求めている道に進みたくなかったんだ」

「けど、そんな事は許されないだろ」


 僕には経験が出来なかった事だが、卒業後の進路は自分の希望というより帝国と教会が話し合って決めるので本人の希望は方向を示す程度にしか聞いてくれないはずだ。


「だからね私は進路が決まる前に辞めたんだよ、もうあそこで勉強する気も無くなってたからね、試験の結果も平均以下に落ちたから意外と自主退学は簡単だったよ」


 成人にはなっていたので自分で治療院を探したそうだが、自主退学をした少女がいる事は魔法を使う者の仲間内では話が回って向こうからスカウトがやってきたそうだ。


 あの魔法学校で成績が一番下だとしても、普通の学校で魔法を学んでいる者の中で成績が一番の者といい勝負をするに違いないからだ。それだからエレナに家をあげても確保したかったのだろう。


「それでさ、今回はどうして僕に手紙を書いたんだ。何かがあるように思ったから来たんだけどな」

「ごめんね、そんなつもりじゃなかったんだけど……あの手紙を書く前の日に彼に結婚を申し込まれたからかな」


 僕がいなくなってから二人はあの時よりも仲が良くなったそうだが、バルナバスが貴族でエレナが平民の孤児であるために、越えてはいけない線があり、今回のこの選抜会でバルナバスは自由を手に入れられる可能性が出てきた。


 今までは次男とはいえ結婚は親が決めるのが筋だが、勇者か勇者の仲間になれば希望すれば実家から独立が出来て新たな貴族家が誕生する。


「そうなんだ。良かったじゃないか」

「そうかも知れないし、確かに好きだったけど、昔に現実を知ったからその気持ちは捨てたんだよ、それなのに今更……」


「まだ好きなんだろ」

「そうかも知れないけど、結婚だよ」


 僕に恋愛相談されても困ってしまう。つい先日、僕は勝手に勘違いして振ってしまったらえらい目にあってしまった。僕にはそのような事は苦手なんだ。


「あぁそうか、バルナバスが選ばれなかったらこの話は消えてしまうもんな、結論を出すには早すぎるよな」

「それもあるよね、どんなに悩んでいても全ては合格が前提の話なんだから」


 バルナバスは合格してから結婚を申し込めば良いと思ったが、それは本人に聞かなければ分からない事だ。


「あのさ、バルナバスと連絡を取ってくれないかな、どう思ってるのか聞いてみるよ、まぁ僕も選抜会に参加するから会場で会える可能性が高いんだけどね」


 僕の話の何処に引っかかったのか分からないが、エレナは顔が強張ってしまっている。


「私が相談した事は黙っていて欲しいんだけど、それよりも何て言ったのお兄ちゃん」

「何がだ」


「選抜会に出るって言ったよね、国中の実力者が集まって来るんだよ、それに教会も絡んでいるんだから出場していい訳無いでしょ」


 興奮しだしたエレナによると、今回はかなりの人数が集まったので候補者同士での戦いもあるそうだ。そこには命の危険もあるらしい。


「興奮するなよ、まぁ勢いで言ってしまっただけだからね、今度、申し込みを取り下げなくちゃな」

「もう無理だよ、選抜会は明日なんだよ、冷やかしと思われると捕まるよ、どうしよう……」


「あぁ……それなら仕方ないけど、選抜会て明日なの?」

 

 この事はエサイアも分かっていないはずなので急いで知らせないといけない。



 

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