第三十二話 僕が援護する方法
エサイアと僕は野営をした事があるが、ラウラは初めてなので夜になるとかなり不安になっているようだ。
「ねぇ本当に此処で眠るの、盗賊とか魔獣が来るかもよ」
「心配するなよ、魔獣対策はレーベンがちゃんとやってくれたし、盗賊はこの辺りにはいないってよ」
まぁこれはあくまでのエサイアの考えであって本当は誰かに聞いた訳では無いと言う事はラウラには言えない。
「もういいじゃないか、僕が最初に見張りをするから、二人は休んでよ」
僕の次はエサイアでその次はまた僕が見張りをするのでラウラが見張りを担当する事はない。僕はその場に座り、体の中から闇を出して薄く広げていく。
僕の魔法は殆どが闇から始まる。アリアナさんから唯一引き継いだ魔法以外は闇から生まれると言っても過言では無い。
んっかなり先の方に気配がするけど、あそこは街じゃないよな。
この魔法は見張りには便利だけど動きを止めていなくてはいけないので、まだまだ改良しないといけない魔法だ。
「エサイア、悪いけど起きてくれないか」
「ん~ん、もう交代の時間か」
「違うんだけどさ、丘を越えたあたりで戦っているみたいなんだ。ちょっと見てくるよ」
いちいち関りを持たない方が良いのは分かっているが、感じてしまったのだからこれを無視して明日死体を見てしまったら僕は後悔するだろう。
エサイアも行きたがったがラウラをこの場にも残す訳にはいかないので、僕は一人で闇に潜って行く。
【潜闇】は魔力の消費は激しいが、僕が走るより何倍も早く障害物なども関係ない。
目的地に近づいたのでそっと地上に出て見ると、馬車の周りを盗賊達が囲んでいるが護衛の騎士が人数が少ない割には転がっている死体は盗賊だけのようだ。
「どうした、まだ来るならいくらでも殺してやるぞ」
「威勢がいいねぇ、いくら殺されようが必ず殺してやるよ」
どうして盗賊はそこまで固執するのか分からないが、盗賊は撤退する気はなさそうで、何となく護衛が不利なような気がする。
「さて行こうかねぇ」
一人の男が手を挙げると、盗賊達は落ちている物を拾いながら投げつけた。殺傷力はあまり無いだろうがこれは精神を削られてしまいそうだ。
「どうしようかな……幻闇」
全ての盗賊達がお互いに魔族に見えるようにと願いを込めながら闇を伸ばしていく。僕の闇が盗賊に触れると直ぐに物を投げるのを止め、何かを呟いている。
「どうした、もう終わりなのか」
「おいっ下手に挑発するな、次の攻撃に備えろ」
……隣の奴は魔族なんだよ、どうした、逃げるか討伐するかしないと。
僕の希望通りにはならず盗賊達はうめき声をあげ、その声はどんどんと大きくなり不気味さが増している。僕も護衛達も意味が分からずただ見る事しか出来なかった。
すると一人の男が隣にいる男に食らいついたと思ったら、それが合図になったようで一斉にお互いを食らいつき始めた。
「隊長、奴らは何を……」
「分からん、いいか、何があってもお嬢様は守るんだ」
……何をやってるんだよ、それは違うだろ。
「幻闇」
盗賊達を待機するように指示を飛ばすと、仲間同士で噛みつき咀嚼をする事は止めたが、今度は素手のまま仲間だけではなく護衛達にも襲いかかった。
乱戦になってしまったので僕の手助けは難しくなってしまったが、素手の盗賊など護衛にしたら楽な戦いだったみたいで全ての盗賊が簡単に斬り殺された。
「こいつらは一体何を考えていたんですかね」
「分からん。まるで馬鹿な魔物のような連中だったな」
この騒ぎがようやく終わりを告げると、馬車の後ろの扉が開き、透き通るような肌を持った綺麗な女性が優雅に降りてきた。
「お嬢様、この地は汚れておりますので降りないで下さい」
「あなた達では対処出来ないでしょ。私がやります」
「ルートゥ様、何をおっしゃっているのですか、もう戦闘は終わりました」
「あのですね、邪悪な魔力があそこから伸びていますよ」
真っすぐに伸ばした指を僕が隠れている方向に伸ばしてくる。僕は助けようとしただけなのに邪悪な魔力と言われるとは思わなかった。
「誰かそこにいるのか」
二人の護衛がこっちに向かって走って来るが、僕の姿を発見した訳では無くただルートゥが指を差した方向に走っているだけだ。
「潜闇」
見つかると面倒に巻き込まれそうなので、僕は闇に飛び込み二人の元に戻る事にした。




