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第三十一話 僕の幻影魔法

 空は快晴で風も穏やかな日なので再び王都に向けて僕達は出発したが、昨日の事があったおかげでラウラとの間にちょっとした壁が出来てしまったようだ。


「お前らいい加減にしろよな、もう午後だぞ、頼むから普通にしてくれ」

「えっ何を言ってるの、普通だけど」


 ラウラは取ってつけたように答えるが、それでも僕の方を決して見ようとはしない。


「僕が悪かったよ」

「そうね、何も言っていないのに私を振るなんてありえないから」

「よしっそれでもう終わりにしてくれ、旅は楽しくないとな」


 エサイアが強引に締めてこの気まずい時間がようやく終わりを告げた。少し気になる事もあるが暫くはその事に触れるのは止めようと思う。


「ねぇそれよりこれからの予定はどうなるの」

「そうだね、時間はあるけどもう真っすぐ王都に向かおうか」

「よしっ野営もしながら向かおうぜ」


 エサイアも中途半端な滞在だと余りいい仕事が無いらしく、ちゃんと王都に根を下ろしてダンジョンや討伐に行きたいらしい。


 しかし、これからはどんどん王都に近づいて行っているので、村よりも街が多いし、それが離れてはいないので好き好んで野営をする必要は無い。


 数日後、エサイアのイライラが爆発した。


「なぁ折角気合が入ったんだから野営をしようぜ」

「馬鹿なの、そんなことする必要なんて無いでしょ」

「もう嫌なんだよ、いいよ、俺は一人でも野営をするから」


 移動しては宿に泊まるを繰り返す当たり前の事がエサイアには我慢出来ないらしい。平凡が嫌で飛び出したのだからもっと危険に触れたいらしい。


 どうせ、冒険者になるんだから好きなだけ危険な事が出来るだろうに、変な奴だな。


 かと言ってエサイアを一人で外で泊らせる訳にはいかないので、僕達も野営に付き合う事になった。


「もう、あと二日で王都なのに、こんな場所で野営何て信じられないわよ」


 僕もそう思うが、僕が勝手に街に留まった事もあるので今度はエサイアの我儘も聞いてあげたい。


 文句言いながらラウラは火をおこし僕は寝床の準備をしていると、久し振りの狩りが相当楽しかったのか満面の笑みを浮かべたエサイアが獲物を抱えて戻ってきた。


「お~い、お前向きな獲物がいるぞ、行ってきたらどうだ」

「僕向きって何だよ……もしかして」


 エサイアを見ると黙って頷いている。僕にとっていいチャンスが訪れたようだ。


「何なのよ、どうせろくでもない事なんでしょ」

「まぁまぁそう言うなよ、向こうにオークがいたんだよ、あいつらは多少の知恵を持ってるからな、実験するにはいいだろ」


 僕は居場所を聞くと急いで走り出した。エサイアは案内をしてくれると言ったがラウラを置いておくわけにはいかない。


 ……急げ、急げ、逃げるなよ。


 指示された藪を抜けていくが、この道はかなり歩きにくい。


 ……何でこんな道を教えるかな、他になかったのかよ。


 藪を抜けていくと二体のオークが地面を掘って何かをしているので、僕はそっと手を合わせる。


 ……ゴメンね、どうせ君達は人間を襲うだろうから前もって討伐させて貰うよ。


「さてと、先ずは恐怖を与えようかな、幻闇」


 魔獣に身体を食べられてしまうと言った恐怖をイメージしてオークに頭の中に闇を染み込ませる。

 すると直ぐにそのオークは震え始め、もう一体にいきなり襲い掛かった。


 ……それは恐怖なのか、なんか違うような、解除するか。


 オークは魔法を解除しても興奮していたが、次第に冷静になったようで茫然と立ち尽くしている。


「今度は幸せだよ……幻闇」


 お腹いっぱいという幸せのイメージを闇に込めて頭に染み込ませたが、そのオークはいきなり自分の持っていた石斧で自分の頭を砕いてしまった。


 ……おいおいまさかこの世界にいない方が幸せ何て言う皮肉じゃないよね。


 結局、狂ったように他者を殺すか自分を殺すかしかしなかったので、この魔法は暫く人間に使うのは保留する事にした。


 どうせならと思いこの辺りにいい獲物がいないか探したが、何も見つからず次第に暗くなってきたので帰りは【潜闇】で潜って帰る事にした。


 行きの何倍もの速さで野営地に戻り、二人の背後に浮かび上がる。


「お待たせ、何だかよく分からない結果になったよ」

「ちょっといきなり話し掛けて来ないでよね」

「どうだった」


 オークの事を全て話したが、エサイアの感想は僕とほぼ同じだった。


「何だか嫌な魔法だな」

「そうなんだよね」


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