第三話 僕の行く先
「やぁ君達か、まさか会えるとは思わなかったよ、挨拶をする暇さえ与えてくれなかったからね」
「マザーから話を聞いたよ、随分と酷い話だな、父上に連絡して君の事をどうにかするからそれまで待っていてくれ」
バルナバスは優しいがそれは無理だと思う。どの程度の権力を持つ家柄なのかは知らないけれど、この教会の決定に意見を言うなど、自分の息子ではない僕の為に動く訳は無い。
「いいよ、そんな事を言ったら君の家に迷惑をかけるだろ、それより僕が学校から追い出された事は広まったのかな」
「まだじゃないか、俺達はマザーから呼び出されて初めて聞いたんだ」
マザーと聞いて胸に何がが刺さる様な気がした。どこか裏切られた気分になってくる。ずっと味方でいてくれたのに闇属性と分かったら付け放されてしまうのか。
「僕が闇属性だって事か」
「あぁそうさ、けど、それよりも君の荷物とこれを渡してくれってさ」
背負い袋を渡され、中に入っていたのは僅かばかりの僕の私物と、一ヶ月は暮らしていけそうなお金と封筒が入っている。
「これは僕に当てた手紙なのかな」
「開けようとするなよ危ないな、いいかその手紙はクルナ村にいるアリアナという老婆に渡すようにだとよ」
どうしてなのか意味が分からないし、クルナ村が何処かも僕は知らない。
「うぐっ、うぐっ、そんなの無理に決まっているよ、お兄ちゃんはまだ子供なんだよ、そんな遠い村に一人で行けるわけないじゃん」
「確かに遠いから乗合馬車で行く為のお金なんだろうな、俺もいくらかかるか知らないが使うしか無いだろうな」
僕はクルナ場所の事よりどうしてマザーがそんな老婆の所に行けと行ったのが気になってしまう。
「マザーは僕を追い出したんだぞ、それなのに信じていいのかな」
「あのな、それは……」
バルナバス達がマザーから聞かされた話だと、水晶で僕の属性を調べようと提案したのはマザーだったそうだ。
僕の魔力は良く分からない事になっているし、身体の成長もしなくなった僕をいくら検査しても原因が分からず、そんな僕を元の孤児院に戻そうと何度も話し合いが行われたらしいが、それを全て跳ねのけてくれていたそうだ。
だが、将来の行き先を決めなければいけない時期になり、成績不振者は排除するのがこのエリートが集まる魔法学校の決まりだ。
マザーは最後の賭けとして水晶による属性検査で、今までに見た事の無い変化が現れると信じて、僕がまだ残れるようにしたかったらしい。
「確かに合っているよね、まさか人間の僕が闇属性何てさ……信じたくないよ」
悔しさの余り唇を噛んで涙をこらえると、僕の代わりにエレナが泣き出してしまったので、僕はそっとエレナの頭をなでている。
「行くしか無いと思うが、大丈夫か」
「そうだね、僕にはそれしか道は無いだろうね、だけどこの見た目は幼すぎるから色々と難しそうだよ」
「そうだよな……君は舐められるかもしれないからこれを持って行くんだ」
バルバナスは身に付けていた高価な剣を僕に渡してくるが、その剣は簡単に貰っていい物ではないし、僕に使いこなせる自信はない。
「その剣は家宝なんだろ、僕が貰える訳はないじゃないか、それに振り回されてしまうよ」
「そうか……ならこっちだな、嫌とは言わせんぞ」
マントに隠してある短剣を無理やり持たせて来るが、この短剣のかなりの価値がある。
「これなら僕にも使えそうだけど、本当にいいのか」
「当たり前だろ、それより無理だと分かったら……」
「ありがとう、僕の事よりエレナの事を頼むな」
これ以上一緒にいると挫けてしまいそうになるので、泣きじゃくるエレナをバルナバスに託し、僕は走り出した。
……これで馬車に……待てよ、身分証が無いじゃないか
……どうする、冒険者ギルド、商人ギルド、農業ギルドのどれだ。
……冒険者ギルドにしよう、それなら働きながら向かえばいいだろう。
ずっと魔法学校の中から出なかった僕には冒険者ギルドが何処にあるのか知らなかったので、人に聞きながら何とか辿り着いたがもう夕方になっている。
直ぐに中に入ればいいのだけど、始めて見るギルドの雰囲気に圧倒されてしまい、中々足を踏み入れる事が出来ず、入口の近くを歩き回っている。
そもそも仕事を終えた冒険者が戻って来る時間なのか、人相の悪い男達や、露出が激しい女性が次々入っていくが、僕みたいな子供の姿は全然見当たらないからだ。
「おい坊主、さっきから何をしているんだ。お父ちゃんでも待ってるのか」
小太りで髪の毛が薄い男と、やさぐれた風貌の男と、片目を失っている男達が僕に優しく話し掛けてくれた。
見た目は怖いけど、いい人たちなのかな。