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第二十九話 僕は久し振りに教会に入る

 僕はあの【幻闇】の魔法を使った時は、ただ悪夢のイメージを送ったがそれだけでは駄目なような気がする。しかし誰かに実験する訳にはいかないので次の機会があるまでは何も出来ない。


「なぁ、もし良かったら俺が実験台になってやろうか、どうせ教会に行けば直ぐに良くなるんだろ」


 その手があるか……光属性の人を仲間にすれば色んなことを試せるかも……。


「いや、やはり駄目だよ。あまりいい予感がしないからさ、いつか盗賊が現れたら実験してみるよ」

「やはり闇属性は厄介だな」


 僕自身心の底からそう思うが、こればかりはどうしようもない。密かに期待しているのはアリアナさんが持ち帰った魔導書だが、解読には年単位でかかってしまうだろう。


 数日後、僕とラウラが最後の仕事に向かって行くと、僕達の方向に向かってあの三人組が歩いてきた。


「ふ~ん、回復したのは本当なんだ。僕の魔法の影響はないみたいだな」


 記憶が本当に無くなっているのか確かめたかったのでこのまま観察を続けたかったが、ラウラは腕を引っ張ってきた。


「ほらこのまま進むとすれ違うよ、向こうの道に行こうよ」

「いいからこのまま行こう、本当に記憶がないなら僕達に何もして来ないさ」


 それ程広い道ではないのでそのまま進んで行くと、先頭を歩いていた男が僕に気が付いた途端に叫び声を上げながら逃げ出した。残りの二人の男は叫ぶことは無かったが、直ぐ近くにある教会の中に逃げ込んだ。


「何だよ、記憶が無いなんて嘘じゃないか」

「そうだね、じゃあもう行こうよ」

「ちょっと待って、記憶があるならあの魔法で何を見たか聞きたいんだよね」


 ラウラを連れて僕も教会に入ろうとしたが、入口の中に入る事を僕の身体が拒否している。


「何してんの、もう入るなら入ろうよ」

「僕って教会に入っていいのかな」


 サンベルノ教会に出入禁止の僕が、此処が王都では無いにせよ足を踏み入れていいのか分からない。躊躇していたがラウラは強引に僕を連れて中に入って行った。


 中では二人以外は誰もいなく、二人の男達は教壇に向かって膝を付き必死に祈りを捧げているが、僕にはそれが何故だか哀れに見えてしまう。


 ゆっくりと近づくと一人の男が振り返り驚愕の表情で叫び出してしまった。


「ちょっと、此処で騒いだら駄目だって」

「ぐぃわぁ~~~、おうぅおう」


 どうしたら良いのか分からず立ち尽くしていると、奥の扉から神官が姿を現した。


「どうしたんですか、此処で騒いではいけませんよ」

「どうか、どうかお助け下さい。あいつは魔人です」

「えっあの子達がですか」


 二人とも僕を指さしながら神官に縋りつくと、神官は肩に手を置いて何かを唱え始めた。すると男達は大人しくなり、どことなく眠そうな目つきになっている。


「いいですか、本当に魔人ならこの中には入れません。あなた達は疲れているのです。もうお家に帰って休みなさい」

「はい……」


 男達はそのまま出て行こうとしたので、僕は声をかけたが僕の言葉は全く聞こえていない様だった。


「今度は無視とはね、どうするレーベン」

「もういいよ、外で騒がれても迷惑だからね」


 僕もそのまま出ようとしたが神官に呼び止められてしまった。


「お二人とも無関係ではありませんよね」

「はいっ、彼等に暴行を受けたので幻術を掛けてしまいました」


 幻を見せる事は闇属性だけの事ではないが、あそこ迄恐怖に陥るとは思えない。


「そうですか、何処で覚えたか知りませんがまだあなたにはその魔法は早いようですね、もう使わない方がよろしでしょう」

「そんなに酷い状況だったのですか」


 神官は怒る訳でもなく、ただ真っすぐに僕を見ている。


「何かに憑りつかれているようでしたね、呪いをかけたあなたが一番よく知っているのでは無いですか」

「いえっ初めて使ったので」

「えっそれなのにあそこ迄……」


 今まで冷静だった神官が初めて見せた動揺だったが、僕の方がもっと動揺している。目の前にいる神官の事をさっきから見ているが、この神官はほんの僅かしか魔力を持っていない。


 それなのに治療出来たと言う事はやはり僕の闇属性は光属性と対等では無いのだろう。

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