第二十六話 僕はようやく落ち着いた
斧に魔法陣を書いたので炎の効果はそれほど長くはないが、見た目の効果は充分にあると信じたい。
「あの、これは一体……」
炎を消しながらゆっくりとエサイアは店員に話し出す。
「だまし討ちみたいな真似をしてすみませんね、こうでもしないと話を来てくれないそうなのでやりました。これを見て話を聞く気にはなりましたか」
「勿論です。ただ私一人では判断できませんので店主を呼んでまいります」
昨日とは店員の態度が違う事に驚くより、エサイアのくせにちゃんと頭を使って行動した事に驚いたが、そう思っているなど本人に言える訳はない。
「凄いね、全てが筋肉で出来ているのかと思ったけど頭を使う事が出来るんだね」
……ラウラには気を使うと言う事は無いようだ。
「あのな、俺は他の村の商人と交渉したりしてるんだよ、頭を使わないといけないに決まっているだろ。そこまで馬鹿にするのか」
「お話し中、申し訳ありませんが別室にご案内いたします」
もう少しで二人は口論が始まりそうだったが、いいタイミングで応接室へ案内された。まだ揉めそうなので二人の間に僕が座り店主が来るのを待っていると、直ぐに斧を持った男が入って来た。
「いやぁお待たせしました。これに魔法陣を書いたのはどなたですかな」
「僕です」
絶対におかしいと思っているはずだが、その男は疑っている様子を一切僕に見せない。
「そうですか、それでこれは何回位、使用できるのかな」
急いで書いたとはいえ水で魔法陣が帰依う訳ではないが、まだ完全に定着していないので連続使用だと後数時間と言ったところだろう。
「ちゃんと定着させたらもっと時間は伸びますけど、やはり武器では無くて防具の方が良い付与は出来ますけどね」
「例えば何かな」
僕の目を見て話すと言う事は僕を信じたか、それとも裏で書いたと思われる人間を想定しているのか、どちらかだ。
「そうですね、防具を軽くしたり、毒素や呪いを跳ねのけたり……目の前で書きますよ」
ここまで来たら断れないと判断して店主の目の前で書いて行くが、それなりに時間がかかるのでそれが唯一の心配だったが、その心配は無用で、真剣な表情で僕の作業を見ている。
「これなら平気だな、俺達はギルドに行ってくるよ」
「そうだね、店主さんレーベンの事をよろしくね」
二人が出て行ってから少しすると、僕の魔法陣が書き終わり、その効果見た店主はいきなり僕にお金を渡してきて、更には契約の話を煮詰める事になった。
魔法陣の出来次第で売値は変わってしまうが、最低ラインの金額が決まり、その日は三つほど防具に書くと、どれもが最低ラインを大幅に超えた金額を僕に渡してきた。
「少し多すぎませんか」
「良いんだよ、その代わり最低でも十日はここで働いてくれよな」
この滞在時間があったとしても選抜会には間に合うので二人には悪いけど勝手に了承してしまった。もし二人が先に進むならそれでも構わない。
今日だけで僕は十日分の滞在費を稼いだことになるので、もし二人がこの街に留まるのなら滞在費は僕が全て出そうと思う。
こんなにも実入りがいい仕事が出来るのに、どうして魔法学校ではあそこまで評価されないのかが不思議でならない。
「あの、魔法陣を武具に書く人って少ないんですか」
「当たり前だろ、魔法陣を書くだけで魔力を消費するからな、普通の奴なら直ぐに倒れてしまうさ、それに魔法陣を勉強する場所なんてこの街にないしな」
てっきり魔導書に乗っているままを書くだけでそれなりの魔法陣が書けると思っていたがどうやら違う様だ。僕は魔力が多いから魔力が消費されている何て気が付かなかった。
そうなると王都での見学が終わったらこの特技を生かしていくしかない。その為には王都か冒険者が大勢いる街を拠点にしようと思う。
今日はもう終わりにして宿に戻るが二人はまだ帰っていないので、僕は先に食堂で食べていると疲れた顔をした二人が帰って来た。
「ご主人、二人にも同じものを出して下さい」
「あいよ」
僕は勝手に注文したがその事に二人は反応しないし、何か雰囲気がおかしい。するといきなり僕の目の前にある水をラウラが一気飲みし、不満を話し出した。
「あ~もう、明日は絶対にエサイアとは行かないからね」
「だから何度も言っただろ、あれしか仕事が無かったんだって」
どんな依頼を受けたのかと思って聞いて見ると、危険な仕事ではなくただの肉体労働だった。エサイアが勝手に決めてしまったので訳が分からず現場に行ってラウラはその仕事内容を知らされたそうだ。
うわぁ、思った以上にどうでもいい。
まだこの街で仕事をしそうなので十日は離れられない事を告げ、何なら先に言っても良いといたがそれは二人とも直ぐに断って来た。
「それなら滞在費は僕が出すよ」
「当たり前だな」
「当たり前よ」
二人が声を揃えて行ってきたので、まぁこの二人は明日にでもなれば普通に戻っているだろう。




