第二十三話 僕はクルナ村を出た
昨日の夜に盛大なお別れ会があり、先程もアリアナさんと二人だけの挨拶を交わしたので涙をこらえながら王都に向かって進んで行く。僕だけの冒険の始まりだ。
しかし、そう上手くはいってくれなかった。
「なぁレーベン、怒ってるのかよ」
「あんたが悪いんでしょ、泣いているレーベンを見ていきなり笑うんだから」
僕はアリアナさんの姿が見えなくなったときに涙がこぼれ声に出して泣いてしまったが、その先に隠れていたエサイアとラウラが笑いながら姿を見せてきた。
「怒るに決まってるだろ、昨日、ちゃんと別れの挨拶をしたよね、いつの日かまた会おうなんて言ったのに何で此処にいるんだよ」
「昨日は仕方が無いだろ、俺達は家出するのに、明日ね、なんて言えるかよ」
「それぐらい分かってよ、おこちゃまなんだから」
好きなように言ってくるが、こんなだまし討ちなどしないで相談してくれればいいのに。
「あのさ、君達はとっくに大人なんだよ、家出なんてみっともないと思わないのか」
「馬鹿だよレーベンは、全く分かっていない。いいか俺は長男何だぞ、家を継がなくてはいけないのに勝手な真似が許されると思っているのか」
「知らないよ、家を継げば良いじゃないか」
「俺はなあの家は弟に継いで欲しいんだ。あいつは少しひ弱だからな、家を出て暮らすのは難しいと俺は思ってるんだ。ちゃんとオヤジにも相談したんだが、考えが古くてな」
2mを越えるエサイアと比べたら誰もがひ弱に見えるし、そもそもエサイアの弟はそこまでやわな男では無いと思う。エサイアはただ自分の力を試したいだけに決まっている。
「エサイアは良いとして、ラウラはどうしてなんだよ、不満何てあるように見えなかったけど」
「あんたは馬鹿だねぇ、いい、私の年齢になったら何が待ってると思うのか考えて見なよ、結婚だよ結婚、婚約だけでも嫌だったのに結婚何てしたくないよ」
『はぁ~っ』
思わずエサイアと声が揃ってしまった。僕達はラウラが婚約をしていたことに全く気が付いていなかったからだ。
「ねぇ五月蠅いから大声を出さないでよ、私は結婚相手を自分で探したくなったの、だから村を出たいんだよ」
「なぁなぁ、婚約者は誰だ」
「サボイさんよ」
サボイは僕達より五つ上で農家の次男だ。僕にとっての彼は……印象が無い。嫌な男なのかそれともいい男なのか、頭が良いのか悪いのか……全く分からない。
「この事はサボイさんは知ってのかな」
「知る訳無いでしょ、両親から伝わるでしょうけど」
エサイアの問題はどうでもいいけど、ラウラの事は簡単にはいかないと思う。これだと僕かエサイアが婚約者がいるラウラと駆け落ちした事にはならないだろうか。
僕はこの姿だからラウラと関係があるのはエサイアになるだろう。
僕が真剣に悩み始めているのに、隣のエサイアは何も考えていないように見え、馬鹿みたいな顔をしてラウラに声を掛けた。
「なぁなぁ何て手紙に書いてきたんだよ」
「レーベンと一緒に暮らすから心配しないでって書いただけだよ」
ラウラは何気ない顔をして言ったが、それだと駆け落ちしたのは僕という事になってしまう。
「えっ俺の事は書いて無いのかよ」
「あんただと心配するでしょ、レーベンならしっかりしてるから安心するかなって思ったんだ」
「安心する訳無いだろ、一緒に暮らすなんて書いたら僕と駆け落ちするみたいじゃないか」
僕が大声を出すとラウラは驚いたような顔になり、エサイアは笑い出した。
「いやぁお前らが駆け落ちか~随分と大胆な事をするね~」
「からかうなよ、いいか、この誤解を解かないと村に帰り難くなるんだぞ」
もうこの時点で僕はラウラの家とサボイの家から恨まれているに決まっている。
「まぁ仕方ないか、どこかの村で手紙をもう一度書くよ、レーベンと駆け落ちした訳じゃ無いって事と、エサイアもいるって」
「それで平気かなぁ~」
綺麗に村から旅立ったつもりがいきなりこんな展開になってしまった。この身体の僕が一人で王都に向かうより、エサイアとラウラが一緒に行ってくれる事は助かるが、この事は二人には絶対に黙っていようと思う。
「もうさ、村に戻って説明するなんて出来ないんだから諦めろ、レーベン」
「そうだよ、三人で旅が出来るなんて楽しじゃない」
「はいはいはい」
楽しいだけで済めばいいが。




