第二十二話 僕に目標が出来た日
ドラゴンゾンビを連れ帰ってから数日はその姿やブレスを見たがる村人が多かったので中々地中に埋める事は出来なかったが、ほんの少し前に村の入口の前に埋まる事になった。
このドラゴンゾンビが一体いるだけでこの村の防御力は相当なものになるのに、数多くのスケルトンも村の周りに埋まっているのでこれらを全て戦わせたら何処かの小国なら滅ぼせそうな気がしてくる。
ただしこれをきっかけにグールを破棄が決まり、簡易的に作成した聖水の水に中にグールを飛び込ませ浄化している。
今回の事でバボラーク村の人達はいかにこの村が安全なのかを確認し、最初は村を立て直そうとしていた人も、今ではこの村をより良くしようと考えを変えたようだ。
物資などは街に比べて格段に劣っているが、貴族でしか買えない魔法陣を僕が各家庭に殆ど只の様に配っているので、ここでの暮らしに文句を言うものは殆どいない。
「お~い、レーベンいるか~」
家の外から僕を呼ぶ声が聞こえたので窓を開けると、ハンスが汗を流しながら立っていた。
「どうしたんですか、何かありましたか」
「お前宛てに手紙が届いているぞ、それも王都からだな」
「僕にですか……」
此処に来てからどころか、僕が生まれてから一度も手紙を貰った経験が無いので、この場合はどうしたら良いのか戸惑ってしまう。まだ開けないで手紙を見ているが僕の名前をみるとどことなく懐かしさを感じてしまう。
「へぇ~あんたに手紙とはね」
僕の背後からアリアナさんが手を伸ばしてきたので、僕は手紙を取られ無いように腕を伸ばす。
「止めて下さいよ、これは僕の初めての手紙なんですから」
「分かったよ、それで誰からなんだい」
手紙の差出人は僕の最後を見送ってくれたエレナだった。
「魔法学校で仲が良かった子ですね」
「ふ~ん、あれから随分と経つと言うのに今更何だろうね」
彼女ももう卒業しているはずなので、書こうと思えば掛けたはずなので少し何とも言えない気持ちも生まれたが、それ以上に懐かしくて嬉しくもあった。
部屋に入って直ぐに手紙を読むと、今まで手紙を書かなかった理由や現在のエレナとバルナバスの状況が書いてあり、僕は読んでいる内に自然と涙が出てきた。もう一度手紙を読み返してから僕は意を決してアリアナさんの元に行く。
「あの、少しいいですか」
「どうしたんだい、とうとう此処を出る気になったのか」
僕の言う事を当てられてしまったので驚くと同時に、やはり僕に師匠だけあると感心してしまう。
「期間は決めていませんが、外に出ようと思います」
「好きにしなよ、あんたにはもう教える事は無いしね、それで何処に行くんだい」
「まず最初の目標は王都です」
その答えは予想していなかったのか目を大きく開けて僕を見ている。こんなにも動揺しているアリアナさんを僕は初めて見た。
「そこはありえないだろ、かなり時間が経ったから今更あんたに何かをする奴はいないと思うが、あそこはないだろ」
「魔法学校にも教会にも近づこうとは思いません。マザーに挨拶が出来ないのが残念ですけど仕方が無いですよね」
「それならどうして王都なんかに……」
「僕の友達があの選抜会に参加するそうです。それの応援と、僕に相談したい事があるそうなので」
この間、6人いる勇者の一人である勇者アールシュが引退を宣言したので、新たな勇者とその仲間を選ぶ選抜会が開かれ、そこにバルナバスが参加をするそうだ。それにエレナは手紙には書けないが、出来れば直に会って相談したいと書いてあった。
僕もこんな属性じゃなかったら参加したかったな……。
「そうかい、それなら行ってきなよ、この村の事は何も気にしなくていいからさ。只ね、外で何をするつもりだい」
「そこが問題なんです。冒険者にはなりたくないですし、定住する仕事なら意味無いですし」
「そうだね、あんたは魔法陣を書く商売をすればいいんじゃないか」
「それなら出来そうですか、買う人はいますかね」
「あんたね……世間はそう思っていないんだよ」
僕の書いた魔法陣はかなり小型化されているので、この村にたまたま来た商人はほぼ買いたがったそうだ。
いくらその話が来ても、村に人達は僕が静かに暮らす為に僕の事を秘密にし、更に僕の書いた魔法陣は決して売る事は無かったそうだ。
「そうですか、それなら商売になりそうですね」
その日から三日を掛けて僕がこの魔法陣で商売をする方法をアリアナさんやリュークさんから叩き込まれた。
外に出る以上、物欲が無いなんて言っていられない。




