第二話 僕は思い出す
当てもなく王都の中を彷徨い続け、広場の椅子に座ってこんな事になる前の事を思い出していた。
9年前
孤児院で推定五歳になった僕はそこの施設長によってサンベルノ魔法学校に送られた。
神官は僕の魔力を調べると直ぐに僕の事を「神童」だと騒ぎ始めた。
この魔法学校は魔力が強い者だけしか入れず。将来は魔法省や神官などの誰もがうらやむ未来が確約されている全寮制の学校だ。
8年前
僕の魔力は日々強くなり、他の子供達よりかなり好待遇を受けていたように思える。
魔力のおかげで僕は学校の中でかなりの人気者になり、この頃は浮かれていた。
貴族の子共からの僕に対する態度が凄いので生意気な子供になりかけたが、それを咎めたのがバルバナスだ。
7年前
この年になると僕と同じ孤児であるエレナも入ってきて、彼女も強い魔力の持ち主だった。
貴族の子供もいるので剣の授業が始まったが、僕には全く才能がなかった。
先生からは笑いながら「君は聖騎士では無く、白魔術師が似合いそうだな」と言われた。
6年前
僕と同じような理由で一目置かれているエレナと過ごす事が多くなってきた。
周りは僕等を特別扱いしてきたが、バルナバスは普通に友達として接してくれる。
貴族は僕を取り込もうと動き始めたが、その度にマザーが助け船を出してくれた。
5年前
魔法陣の授業が始まり、他の子が何日も掛かってしまう魔法陣も僕は数時間で書けてしまう。
しかし、この頃から僕の魔力が測れなくなってしまう。
それと対照にバルナバスの魔力が急激に伸び始め、剣技も優秀な事から将来の聖騎士候補と言われるようになる。
悲しい事件があって、成績が優秀だった孤児の子が急病になってあっという間に死んでしまった。
4年前
魔法の授業が始まったのだが、基本魔法もそうだけど相性がいいはずの水属性の魔法すら発動する事が出来ない。
それ以上のショックなのが、この時期からは一切身長が伸びず僕の成長期がもう止まってしまった。
バルナバスやエレナは僕に対して態度を変えたりはしないが、この頃から周りの視線が冷たく変わって行った。
3年前
少しずつ基本魔法は出来るようになったが、威力や発動時間は他の子どもに比べて極端に悪い。
それに魔法の授業が始まったばかりのエレナの足元にも及ばない。
僕の見た目の事もあって、二人以外からは話し掛けられる事は殆どなくなった。
2年前
周りはどんどん魔法を覚えていくのに僕は全く成長していない。
一日中魔法を使っていても魔力切れはしないのだが、基本魔法がどうにか使える位だ。
僕の身体はいろんな場所で調べられたが結局分かった事は何一つない。
大人達もマザー以外は僕に冷たい視線を見せるようになった。
1年前
とうとう僕は教室から追い出され一人だけにさせられる。
理由は僕がどんな魔法も使えなくなってしまったからだ。
一人で魔法陣を書き写すだけの日々を過ごすことになる。
バルバナスがいないと絶えず僕の耳には悪口が聞こえるようになった。それは学友だけではなく先生からもだ。
前日
ただひたすら一人で魔法陣を書いている部屋の中にバルバナスが顔色を赤らめて飛び込んできた。
「どういう事なんだ。お前は明日属性検査をするそうじゃないか、それに何の意味があるんだ」
「知らないよ、もうどうでもいいんだけどね、僕の属性が変わっていようがそのままだろうが、基本魔法すら使えない僕には意味が無いのに」
属性は魔法を使うには知らなくてはいけないが、どの属性も使える基本魔法すら出来なくなった僕には何の意味もない。
水晶による検査は飲まず食わずで一日がかりでやるので、他の人は入学が決まった時と卒業する時しかやらない。そもそも水晶に頼らなくても自分がどの属性なのかは魔法を使おうとすれば分かる事だ。
「なぜお前は魔法が使えないんだろうな、俺ですらお前の中にある魔力を感じられるのに不思議じゃないか」
「僕はね、今まで色んな治療法をやらされたからもう嫌なんだよ、僕みたいな奴はね、君達みたいな優秀な魔法使いのサポートに回ればいいんだ」
本心としては今でも治療師か勇者の一員として活躍したいが、僕にはその才能が無いのだから諦めるしかない。こればかりはどうあがいても越えられない壁だと思う。
ただ、この見た目をどうにかしないと何時まで経っても子供扱いされそうだ。
そして現在
僕はどうしたらいいか全く分からず、いくら考えても何の考えも浮かんでこない。
「こんな所にいたんだな、そんなしょぼくれた顔をするなよ、俺達が来たぞレーベン」
いつもと変わらない笑顔のバルナバスと、泣きそうな顔をしているエレナが僕の前に立っている。




