第十九話 僕の戦い方
確かにパドゥは上等な服に身を包んでいるし、身体から溢れ出ている魔力は禍々しいが、中身は只の骸骨しか見えず服を脱いだら僕らの周りにいるスケルトンと変わりがない。
「ねぇ、どうやってあんな風にゴブリンを操ったの」
一瞬だけワイトであるパドゥの動きが止まり、もし顔に肉があるのなら人を馬鹿にした表情を見せているのかも知れない。
「君は何を言ってるんだ。ネクロマンサーならそれぐらい出来るだろうに」
「えっそうなの、じゃあ私もゴブリンをあんな風に操れるかな」
「君がゴブリンの言語を理解していればな、ったく、そんな事も知らないし傀儡もその程度しか持っていないなんて……期待外れだな」
パドゥが片手を上げると僕達の周りにいるスケルトンが一斉に動き出してくる。
「ちょっと待ってよ、もうっまだ話したいのに……潰れなよ」
僕達に近づけないようにアリアナさんは重力の結界を張り出した。向うのスケルトンの前の方は立ち上がる事が出来ずに地面にうつ伏せで倒れているが、後の方には届いていない。
「やはり君は駄目だな、どうりで中途半端なネクロマンサーだと思ったよ、その重力魔法もその程度なのだよな」
「どういう事よ、何が言いたいの」
「う~んどうするかな、私の弟子になると言うのであれば教えてやってもいいのだがな」
アリアナさん結界でスケルトンはなすすべが無いのにパドゥは余裕を見せている。僕も攻撃に参加しようとしたが、肩を押さえてきたのでまだ出番ではないらしい。
「あのさ、これは魔国が宣戦布告をしたって事でいいのかな」
「まさか、これは私の暇つぶしだよ、まだ魔王様は戦争を始める気は無いそうだからな、それで君はどうする」
「それじゃあ、あんたには死んでもらう」
「馬鹿な事を」
パドゥが杖を一振りするだけでアリアナさんが作った重力結界が破壊され、スケルトン達がゆっくりと立ち上がった。
「レーベン、後の敵は任したよ」
「結界が破壊される前に行ってくださいよ……炎闇」
僕に近づこうとしているスケルトンを闇の炎が包み込むと、そのスケルトンは振り返り自分の仲間に抱きついて燃え移らせる。
僕の【炎闇】は全身を闇の炎で包まれた者がその身体を燃やし尽くされるまで単純な命令を聞いてくれる。僕が【炎闇】に込めた命令は、(人間の敵を燃やせ)だ。
奴らは燃えやすいらしくて次々と燃え尽きて消えてしまうが、次々と被害を広げている。だけど僕の魔力もあり得ない程に吸い取られていくので、その場に座り込んで魔力を少しでも減らさないように身体を休ませるしかない。
「馬鹿な娘よ、いくら倒しても復活するに決まっておるだろうが」
その言葉で振りかると、アリアナさのスケルトンが次々とパドゥのスケルトンを砕いているのが見えた。
「奥の子供の魔法がやっかいだな」
パドゥは僕の【炎闇】がこれ以上燃え広がらないように、土の壁をだして何とか封じ込めようとしている。
「敵は私でしょ」
「何を馬鹿な事……」
崩れたパドゥのスケルトンが再び復活しようとするが、何故か動き出した骨がアリアナさんの骨にくっ付いて、その大きさを変えていく。
「ほらっどんどん私の子が強くなっていくよ」
「何故だ、どうしてこんな事が出来るんだ」
何倍にも大きくなったスケルトンは武器などは使わずにただ殴り飛ばして砕き、そして吸収する。もうこれ以上大きくしなくても良いと思うのだが、パドゥのプライドを踏みにじりたいのだろう。
パドゥは更にスケルトンを出現させるが、もはや養分にしか思えない。
「ほらっあんたももう少しでしょ」
「あっ」
すっかり忘れていたので振りかると、土壁に囲まれた中のスケルトンの最後の一体が崩れ去るところだった。
「脅かさないで下さいよ。全く問題ないじゃないですか」
「それでもまだ終わっていないんだよ。最後まで気を引き締めなさい」
「はい……」
「お前も私を馬鹿にしているじゃないか、ふざけるなよ、絶対に殺してやるからな」
威勢の良い言葉だったので僕もアリアナさんも身構えると、再びスケルトンを出現させてから背中を見せて逃げ出した。
「もう何なのよ、雑魚しか出さないなんて」
「何か裏があるんじゃないですか、それよりこれどうします」
この辺りに生えている木とほぼ同じ大きさになっているスケルトンを僕は見上げている。
「よそ見しないの」
アリアナさんが僕を抱えながら横に倒れ込むと、僕達の背後に眩しい光の束が見え、それをもろに浴びてしまった一体のスケルトンは消滅してしまった。




