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第十八話 僕は心配している

 まだ夜は明けていないが森の中を走って行る。てっきり直ぐ近くに潜んでいると思っていたが、どれだけ走ってもアリアナさんはその速度を緩めない。そろそろ僕の身体は悲鳴を上げ始めたというのにアリアナさんは息を全く乱していないのが恐ろしい。


 マザーと同い年なんだから僕のおばあちゃんと言ってもおかしく無いのにな。


「だらしないねぇ、もっと身体を鍛えなきゃ駄目だよ」

「鍛えているんですが、アリアナさんが凄すぎるんですよ」

「無粋だねぇ、もうすぐ到着するからその前に休むよ」


 もうゴブリングールは繋がりを切られてしまい只の死体に戻ってしまったが、魔人はわざとなのか自分の魔力を隠そうとしていないので僕には無理だが、アリアナさんはその場所を把握している。


「あの、どうして居場所を教えるような真似をするのですかね」

「そいつの計画を潰した私達に興味があるのか、それとも怒っているんじゃないか」


「どちらにしてもですね……」

「それに、スケルトンの事も気が付いているだろうから、私の事を馬鹿にしてるのかもね」


 ネクロマンサーにしか見えない繋がりを追って来たのだからアリアナさんの正体に気が付くのは分かるが、どうして実力不足だと思っているのかは不明だ。


「このまま向かって大丈夫ですか」

「私等の闇属性の魔法が魔人に通用するのか分かるんだよ。こんな機会は中々無いから楽しいじゃないか」


 その言葉だけ聞くと単なる戦闘狂のように聞こえるが、アリアナさんはそこまで単純な女性では無いと知っている。


「分かりました。それでどうしますか」


 アリアナさんの考えを聞いたが、確かにネクロマンサーとしての実力を測るにはいい機会だと思うけど、目測が外れてしまったらかなり危険になってしまう。ただその保険として僕がいる訳だが、僕がちゃんと秘密兵器になるのかは自信が無い。


「あっ言い忘れていたけど【腐闇】は使っても無駄だからね」

「えっそうなんですか」

「ネクロマンサーには効くだろうけど、傀儡には効かないよ、試しにこいつにやってごらんよ」


 指名されたスケルトンは何も考えていない目を僕に向けてただ立っているので、少しだけ僕に胸に罪悪感を抱えてしまう。


「ごめんね、僕はやりたくてやっている訳じゃ無いんだよ【腐闇】……」


 頭から全身を闇が包み込んでしまったが、スケルトンが両手で闇を払う仕草をするだけで闇は消え去り、そこには何処も欠損していないスケルトンが立っている。


「こいつらの骨はね、普通の骨とは少し違うんだよ」


 確かにクルナ村の中や外には沢山のスケルトンが埋まっているけど、それが単なる骨であったら土になってしまっても不思議では無いし、それと同様にグールもいつまでも腐りかけのままという事がおかしい。僕はこの魔法のごり押しをするつもりだったので戦う前に聞けて本当に良かった。


「大丈夫かい」

「まぁ何とかしますよ」


 別に【腐闇】が全てではないのでそれなら他の魔法を使えば良いだけだ。不謹慎かもしれないが、相性が悪そうな相手なので僕も少しだけ楽しくなってきた。


「あっそうだ。最初は会話をするつもりだからさ、邪魔はしないでおくれよ」

「会話になりますかね」

「どうだろうね、分からないけど会話になったら嬉しいね」


 アリアナさんが何を聞き出したいのか知らないが、同じネクロマンサーとして聞きたい事が色々あるのだろう。アリアナさんの事は師匠だと思っているので僕は命令に従うだけだ。


 それからはもう走らないで歩いて行くが、感知能力が低い僕でも感じられる程、嫌な魔力が全身を包んでくるように感じられる。


「これはわざとですよね」

「完全に遊んでいるな、いいかい、無理に払おうとするなよ」


 全身に鳥肌が浮かび上がってくるが、アリアナさんが僕の背中に手を置いてくれると、それまでの嫌な感じが消え去って行った。


「有難うございます。落ち着きました」


 すると、僕達の周りを何百体の多種多様なスケルトンが地面から現れ僕達を囲んでいる。あの嫌な魔力の流れはこれを誤魔化す為の仕掛けだったようだ。


「お前らのどっちが幼稚なネクロマンサーなんだ。まぁ少しは楽しませてくれるかな」


 スケルトンの間をかき分けながらマントで全身を包んでいる奴が現れた。その姿をアリアナさんは見ているはずだが、何故か無視している。


「何処に本体のネクロマンサーがいるんだい。隠れていないで出て来なよ。全くスケルトンばかりで嫌になるよ」

「何だと、儂もスケルトンと言うんじゃないんだろうな、儂はなワイト族のパドゥだ」


 マントを開いたのだが、その中身はスケルトンと大差が無いので笑い出してしまいそうだが、僕は怒っている相手を前にして笑う事はしない。


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