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第十四話 僕の友達

 いきなりこのクルナ村に百人位の人達が駆け込んできたのだから、村の中はかなり慌ただしくなってしまっている。逃げて来た人達はずっと走っていたのかなり疲れ切っているし興奮しているのでまだまともな話が出来る状態では無い。


「ほら、あんたは魔法陣を用意するんだ。それが終わったら……」


 最後まで話を聞かなくても大丈夫だ。僕はこの状況に使える魔法陣を家から運んできて、先ずは避難してきた人達の身体を綺麗にして貰っている。


 服や体が清潔になる事で少しは気分を落ち着かせて欲しい。そしてクルナ村の人達は総出で食事の準備と受け入れ態勢を整えている。どう考えても只事では無いので早くその話を聞きたいが、僕達は誰も聞く事はしない。


 ただアリアナさんはバボラーク村の村長と別室で話し合っているので、焦らずともいずれは情報は入って来る。


 ただ避難民の中にはサンベルノ経典を胸に抱きしめ必死に祈りを捧げている人がいた。僕は特に意識していないつもりだが、エルシュさんから軽く後頭部を叩かれ、そして後ろからそっと抱きしめられた。


「色々あって辛いと思うけど、そんな顔を見せたら駄目でしょ、分かったの」

「すみません」


 僕はこれでも二十歳越えている立派な大人なので、慰めるためとは言え抱きしめるのはどうかと思ってしまう。無下にしてしまうとエルシュさんを傷つけてしまいそうになるので我慢するしか出来ないが。


「お~い、アリアナさんが男は集合しろってさ、早く行こうぜ」


 僕を呼びに来たエサイアと共にこの場を飛び出すと思わず前から来たラウラとぶつかりそうになってしまった。


「ちょっと、前を見てよね、そんなに慌ててどうしたのよ」

「アリアナさんが男連中を集めてるんだよ、まぁ想像はつくけどな」


 この二人は偶然にも同い年でこの村で出来た親友だ。


 エサイア、2mを越える大男で見た目通りの力自慢。

 ラウラ、この村で一番かわいい女性だが、頭が少し……ずれている。


「エサイアはどうでもいけど、レーベンは無理しちゃ駄目だからね」

「ちょっと待てよ、俺はどうでも良いのかよ、いいかこの顔に騙されるなよ、こいつの魔法はえげつないんだからな」

「ちょっと酷く無いか」


 確かに僕の魔法の中にはただ苦めたり、身体を溶かしたり、体液を……まぁ褒められた魔法じゃない。


「そうだったね、いつも見た目に騙されるけど、えげつないんだよね」

「だから、わざとじゃ無いし、気にしているんだけど」


 僕はアリアナさんから言われ、あまり魔法を人前では使用しないようにしているが、見た人間がかなり衝撃を受けて他の人に話してしまう。

 それで避けられるというような事はないが、可哀そうな目で僕を見てくるので、それはそれで嫌だ。


「もういいだろ、早く行こうぜ」

「君達のせいじゃないか」


 余計な時間を使ってしまったが、この村の中央広場に行くと、クルナ村の男達に加えてバボラーク村の男達も集まっていた。

 僕達が到着してからほどなくして全員が集合するとアリアナさんは皆を見渡せる台の上に登った。


「みんないいかい、バボラーク村がゴブリンの群れに襲撃されたそうだよ」


 ゴブリンと聞いて、少しだけ失笑をする者が現れた。バボラーク村の人達には聞こえていないようにしているが、緊張感のあった空間が歪み始めた様な気がする。


「いいかい、ただのゴブリンじゃなくて、知恵があるのか集団行動をしているそうだ」

「あの、それでもゴブリンですよね、何とかなるんじゃないですか」


 無謀にもアリアナさんの話に御途で割って入ってしまったハインツは周りの者から叩かれてしまったし、アリアナさんからは睨まれている。


「そのゴブリンはこの間は滝つぼでスライムを飼育していた形跡があるんだ。この村なら大したことのない出来事だが、魔法使いがいない村だったら駆除するのしても苦労するだろう」


 本当にそうなのかは分からないが、再びこの場に緊張感のある色がこの場を染めていく。


「分かりました、私が責任を持って討伐しに行きます」


 先程の失態を返上したいのかハインツは率先して立ち上がったが、アリアナさんによって座らされた。


「今後の事も考えてバボラーク村はもう放棄する方向にするそうだ。皆には避難してきた者達がちゃんとこの村で受け入れてあげる事が出来るようにクルドを中心にやってくれ」

「あのそれは良い考えだと思いますが、バボラーク村はゴブリンに上げてしまうのですか」


 ハインツはまだ諦めていない様だ。


「あいつらとの共存は無理に決まっているからね、いいかい、バボラーク村には私とレーベンだけで行く」


 その言葉にクルナ村の男達からは興奮したような歓声が起こったが、直ぐにアリアナさんがそれを押さえクルドを中心とした話し合いが進められた。


 僕とアリアナさんはそれを横目に見ながら討伐の為に準備に取り掛かった。


 

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