第百二十話 僕とバルナバス
「お前のせいなんだな」
「何を当たり前の事を言っているんだよ、この状況で俺以外の誰が犯人だと言うんだい」
目の前に降りて来た男は確かにその見た目はバルナバスだが、僕の親友であるバルナバスではない。
「グレゴールの飲んだのか」
「今更かよ、当たり前だろ君で実験した後で僕も飲んだんだよ、君が死ななかったのなら俺が死ぬ訳ないからな」
僕は最初にグレゴールを飲まされたと聞いた時はバルナバスの親のせいだと思っていたが、二度目の時はバルナバス以外には考えられない。それでも真犯人によるミスリードだと信じたかった。
「君は副作用でおかしくなったんだな」
「あのな、悪いけど俺に副作用何てある訳無いだろ」
「いや光属性になったのもその性格も副作用のせいなんじゃないか、いやその光属性はまがい物か」
バルナバスは僕達を威嚇する為なのか、魔力を隠そうとしないので分かった事だが、彼は純粋な聖騎士ではない。光属性の魔力の中に不純物が混ざってしまっているようだ。
だから人を操る魔法が使えるのだろう。ただ不純物なだけあって完璧には操れない様だが。
「失礼な奴だな、いいかい俺は光属性の進化系なんだ。回復系の魔法は使えなくなったがその代わりにもっと面白い魔法が使えるんだぜ」
「お前のせいで僕はバザロフを殺したんだぞ」
「別にいいじゃないか、どうせバザロフはここでお前達を全員殺すつもりだったんだからな、俺のおかげで勝てたんだからいじゃないか、本当はさぁあいつが考えた方法だと生ぬるいから手伝ったんだけど、上手くいかないもんだよな」
ため息交じりで子供が拗ねている様な仕草を見せているバルナバスに対して、エレナが【光の矢】を放った。
「ふざけないでよ、私の知っているバルを返してよ」
身体の手前で止まっている【光の矢】を払いのけながら不思議そうな顔でエレナを見ている。
「何を言っているんだ。俺は昔と何ら変わらないぞ、そもそもレーベンのあれを飲ませたのは俺なんだぞ、その後でこいつと仲良くしていたのはどう変化したのか近くで見たかったんだ。それに弱者を救うなんて良い奴だと思われるだろ」
バルナバスの言動にエレナは唇を噛みしめながら流れている涙を拭こうともせずただバルナバスを見ている。
トビアス達は今にも飛び掛かりそうな雰囲気を出しているがそっと合図を送り、動かないように指示を出している。
「どうやってあの薬を手に入れたんだ」
「父上に決まっているだろ、どうせ俺なんてあのままだと意味の無い存在だったんだ。だから喜んで手に入れてくれたさ」
「息子が死ぬかもしれないのにか」
「そんなもんだよ、ただ俺だって無駄死にはしたくないからな、だから先に実験をしたんだよ」
「僕は運良く生き残ったが、あいつは死んだんだぞ」
「分かっていないな、お前が知らないところでもっと試しているんだよ、バザロフも飲んでいるんだぜ、それで分かったんだがある程度魔力があれば生き残れるってな」
僕はバルナバスをずっと親友だと思っていたから、疑いはしたけど信じたくなかった。だからいるはずの無い背後の黒幕をずっと探していたんだ…………。
「ごふぅ、ぐがぁ」
バルナバスは一瞬消えたと思ったら、僕の左側に現れ横腹を蹴って来た。その姿を捕えることが精一杯でその攻撃を防ぐ事が出来ない。
「もう死んでいいよ、君達は全員が魔人に殺されたことにするからさ……まぁ一人ぐらいは傀儡として生かしてあげてもいいかな、あの魔法の実験台になって貰わないとね」
「いい加減にしろよ……滅闇」
細くて速さのある闇がバルナバスに向かっていくが、バルナバスの身体が光り輝き、僕の闇を消してしまう。
「お前の魔法は僕に届かないさ、ただ此処で暴れると妻に怪我をさせてしまうかも知れないな、なぁ少し場所を変えようか」
「誰が妻になるもんですか、私が思い描いていたバルナバスは幻想だったの、決してあんたじゃない」
エレナの目からは涙はもう流れていなく、ただバルナバスを睨んでいる。バルナバスはほんの少しだけ顔を歪めながら辛そうな表情をした。
「可哀そうに君は何も分かっていないんだな、いいかい……」
「もういいだろ、行くぞ……翼闇」
これ以上エレナと会話をさせたくないし、このバルナバスは僕が倒したい。
◇
バルナバスは文句も言わずに僕の後を飛んできて荒野のような何も無い場所に降り立った。これ以上醜悪な姿をエレナに見せて欲しくない。
「此処でやるのかい」
「そうだね……滅闇、毒闇」
よそ見をしているバルナバスに一気に二つの闇を試してみるが、腕を組んだ状態でまた体が光、僕の闇は消えてしまう。
「この程度なら僕には効かないな」
「そうかい……刃闇」
高濃度の魔力を込めた闇を飛ばすと、今度は弾かれる事はなくバルナバスの身体を切り裂こうとしたが、その瞬間にまたしても姿が消え、僕の腹に拳をめり込ませて来る。
「ずるいよなお前は、属性の相性を破るなよ」
「ぐぅぅぅ」
僕を弄びたいのか何度も拳で殴り、身体が立っていられなくなる。
「ただ殴っているように思えるか、それは間違いだね」
攻撃が一度やんだのでその隙に転がるようにして距離をとる。
「毒闇、滅闇、炎闇、そしてまた滅闇、だったら操闇」
無茶苦茶の魔法を放つと、バルナバスは距離をとりながら一つづつ僕の魔法をその槍で切り裂いて行った。
楽しそうに口角をあげ、下衆な笑い声を上げながら魔法を潰していくバルナバスはもう僕の知っている親友の姿には見えなかった。




