第百十九話 僕は混乱する
湖を二手に分かれて進んで良き、上手くいけば反対側でバザロフのパーティと合流する事になる。
数時間後、僕達は残党と戦闘する事はなくバザロフのパーティと合流を果たしたが、彼等の方はバザロフとバルナバス、そしてルートゥの代わりに入ったディアナしかその姿を見せなかった。
「あの、他の仲間は何処にいるんですか」
「殺されたに決まっているだろ、俺が鍛えてやったのに馬鹿な奴らだよ」
「ちょっと、その言い方は……」
酷い言い方に思わずバザロフの詰め寄りそうになったが、僕の腕をバルナバスが掴んでその場から離れようとさせた。
「何も知らないのに文句を言うのか、そっとしてくれ」
「何があったんだよ」
僕には何も言いたくないのかバルナバスは僕を肩をそっと叩いてそのまま立ち去り、バザロフ達は野営の準備を無言で始めた。
「連絡を何故して来なかったんだ?」
「いいから気にしない事よ、どうせ司令官に報告をしなければいけないのだから知りたければそのうち分かるでしょ、まぁ報告が正しいとは分からないけどね」
近寄って来たルートゥは思い当たるふしがあるのか吐き捨てるように言い、僕達はバザロフから離れたこの場所で野営をする事に決めた。
見張りをエサイアとルートゥに任せて眠っていると、突然叫び声が聞こえたので一気に目が覚める。
「クッソ~あの野郎」
「油断するなって言ったでしょ」
湖の畔では片手を失ったエサイアが反対の手で流れる血を押さえ、ルートゥの氷壁がバザロフ達の攻撃を防いでいる。
「えっ、この状況は何?」
「いいからバザロフを仕留めろよ」
怒鳴るエサイアに落ち着いて話しを聞く状況ではなく戸惑っていると、ルートゥの氷壁を蒸発させたバザロフが目を見開き舌を出すという常軌を逸したような表情でルートゥに迫って行く。
「何だよ……刃闇」
ルートゥに近づかせないためにあからさまな斬撃を放ったが、全く気にする様子もないバザロフは正面から【刃闇】と交差し、その身体の左半分を失い噴水のように血を撒き散らしながらその場に倒れていく。
「何をやっているんだ。こんなの避けられるだろうが」
こんな単純な攻撃など当たる訳ないと思っていたし、ただ時間を稼ぐつもりだったのにバザロフは防御もせず簡単に倒れている。
「エレ……」
エレナに助けを求めようとしたが、そのエレナはエサイアの右腕を直している最中なので動く事が出来ない。
「きゃあ~」
振り返ると身体が半分しかないバザロフが片手の力だけでルートゥに迫ろうと動き出している。あまりの異常なこの状況にあのルートゥでも恐怖に包まれているようで、動く事も出来ずただバザロフを見ている。
「あ~何なんだよ……滅闇」
未だに狂気を帯びた表情のバザロフにはもう僕の言葉は届かいと思い闇を伸ばしていく。闇に触れた部分が消滅していっても、バザロフはただはいずるようにルートゥを目指し……そして消えて行った。
「ルートゥ大丈夫か、何があったんだ」
「知らないわよ、いきなり襲ってきたんだから」
「うぐわぁ~~~~」
悲痛な叫び声が聞こえた方向を見ると、全身から血を流し、片足が変な方向を向いてしまっているトビアスがディアナの胸に剣を突き刺しているところだった。
「あっちもかよ」
傷の具合がどうなのか分からないが回復薬を手にトビアスの元へ走って行く。
「これを飲むのかよ、苦くて嫌だからエレナちゃんを待っていたいんだけどな」
「贅沢言うなよ、エレナの魔力は無限じゃないんだぞ、それより何があったと言うんだ」
僕が目を覚ましてから全く意味が分からず勇者であるバザロフを殺してしまったし、目の前でディアナはトビアスによって殺されてしまった。
「俺だって意味が分からないさ、先ずは集まった方が良いんじゃないか」
「そうだよね、あぁ肩を貸すよ」
まだ回復しきっていないトビアスに肩を貸し、項垂れて放心状態のルートゥを立ち上がらせてから治療中の二人の元に向かう。
エサイアは顔に苦痛の表情を浮かべているが、その腕はエレナによって元に戻っているように見える。
「腕は治ったのか」
「まだだよ、今はただくっ付いているだけ、砦に戻ったら本格的に魔法をかけるけどこの状況だと出来ないでしょ」
この状況が分からない今は少しでも魔力を温存させておきたいのだろう。エレナが冷静な判断が出来ているのは凄く助かる。
パチパチパチパチパチパチパチ
いきなり空の上から拍手が聞こえてくる。僕は顔を上げたいが心がそれを拒んでいて見上げる事が出来ない。
「中々面白い戦いだったな、だけどさ、あれだと本当のバザロフには勝てないぞ……まぁもうお前に殺されたからいないけどな」
「何をしたんだ。全てお前の仕業なのか」
「そうとも言えるし、違うとも言えるな、そもそもバザロフはお前達をここで殺そうとしてたみたいだよ、手助けをしたつもりだったけど余計な事をしちゃったよ、失敗、失敗」
僕達の目の前に降りて来たのは昔と変わらない笑顔のバルナバスだった。




