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第百十七話 僕もやってみようかな

 空から敵の様子を探ってから集合場所に向かったので、待ちくたびれたトビアスはどうなっているのか聞きたくてたまらないようだ。


「なぁなぁどうだった。かなりの数を減らしたと思うけど、残りは何体ぐらいなんだ」

「そうだね、まだ三、四百はいるかな、分散しているのが面倒だけどね」


 すると干し肉を咥えながらエサイアは冷静に言ってくる。


「もうさぁ此処で待ち伏せすれば良いんじゃないか、どうせ連中の大部分はこの下を通るんだろ、登ってくる奴らは俺達に任せてくれよ」


 昔と比べてエサイアは僕とルートゥのサポートに入るのは嫌じゃなくなったようだ。まぁかなりトビアスから怒られたせいでもあるが。


「それじゃあそうしようか、煙闇を消すからまた動きだしてくれるだろうね」

「さてそれじゃ俺達は少し下に行こうか、エサイアは決して興奮するなよ、あんな真似したら許さないからな」

「分かってるって」


 ◇


 僕とルートゥは高台に登り魔人が通過するのをただ待っている。何かがあってもいいようにエレナの魔力は温存させるので僕の後ろで待機してもらう。


「ねぇお兄ちゃんの魔力はまだ大丈夫なの?」

「そうだね、いつもよりは減っているけど全然大丈夫だよ、やはりこの指輪の力は凄いね」

「勇者らしくて良いんだけど、そろそろまともな魔法を覚えないと困るんじゃないかな、今回だってそのせいでこんな場所にいるんだし」

「実はね、密かに練習していた魔法があるんだよ、初お披露目しようかなって思うんだ」


 今までは僕達が魔人と戦う時は僕とルートゥの広範囲魔法で最初に叩いてからトビアスとエサイアが逃げ延びた獲物を斬撃で仕留めていくのでほぼ接近戦になる事はないし、圧倒的な差で戦いは終わる。しかし何にせよ僕の魔法で倒すと目も当てられない状態になってしまった。


 使う予定の魔法はオリジナル魔法とはちょっと違うんだけどね……。


「どうしますの? わざわざ戦う価値がありますの?」

「えっ? あっそうなったか」


 【炎闇】は魔人中でまだ被害を広げていて、後方では火の壁の様になっている。


「ほらっ炎に巻かれない連中もいるからさ」

「お~い、レーベン、作戦変更の提案してもいいか」

「勿論だよ、どうするんだい」


 魔道具から聞こえるエサイアの声は、何故か楽しそうなので秘策があるみたいだ。


「俺とエサイアが練習していたんだよ、見てな」


 僕達から少し下にいる二人が魔人達を見下ろせる場所に出てくると。エサイアの斧が光を放ちながら振りまわしている。


「ほらっもっと集中しろよ、もう少しだぞ」

「分かってますよ」


 エサイアが振り回す斧から光が置いてきぼりになり、光が球状のように集まり始めた。


「どうかな」

「まぁいいんじゃねぇ~の」


 役目が終わったのかエサイアはその場から離れて座り込むと、かなり荒い息を上げながら腰に下げた水筒を流し込むように飲み始めた。


 エサイアは光の玉の近くで腰を落として剣を構えるとそのまま突き刺した。すると光の玉に亀裂が入り細かい光に別れて魔人に向かって行く。


 光の破片の全てがトビアスの思い通りに動かせるのか次々と魔人を貫いていった。


「ぐぅぉぉぉぉぉぉ」


 血を流していない魔人は一体もいないのだが、致命傷を逃れたサイクロプスが何対も此方を魔がけて走って来る。


「やはり生命力が高いよな」

「う~ん、実戦では初めてだからな、エサイアがちょっと緊張したんだろ、本当だったら細切れになっているさ」


 トビアス的にはもっと効果があるはずだと思っていたが、エサイアが上手く球体を作れなかったと思っている。


「あのさ、僕も試して良いかな」

「遊びじゃないんだけど、まぁやってみろよ」


 エサイアに触発されて僕も練習していた魔法を使ってみる事にした。この会話を聞いたのかルートゥは持ち場を放棄して座っているので僕には余計な緊張が走って来る。


 あぁサポートする気がないな、まぁいいけどさ。


 杖を上に掲げ魔力を込めて行くと、一気に僕の魔力の半分以上を持っていかれ掌サイズの【闇玉】が完成した。


「さぁ今回は本番だぞ、上手くいってくれよ」


 【闇玉】は僕の魔力を吸いながら速度を上げて魔人の側を通過すると、近くにいた魔人だけがその姿を消していく。アリアナさんに【重力玉】を真似した魔法で消す対象を選べるのは良いが魔力の消耗が激しすぎる。


 これならエレナも納得してくれるかもしれないけど、消耗が激しい割にはちょっとな……。


 今は成功しているように見えるが、今回の敵は魔力が少ないしかなりの体力を失っているから上手くいったが、もし最初にこれを使っていたらここまでの成果は無かっただろう。


「あ~疲れた」

「お兄ちゃん、これなら良いんじゃない」

「いやぁ疲れすぎだよ」


 遠くの方で燃え盛っている魔人を見ながら回復薬を飲み込む。だけどそれだけで魔力が回復する訳では無く、激しい頭痛が襲ってきた。


 僕も本番だから力が入り過ぎたのかな、威力は申し分ないけどまだ敵がいる場合には使えないな。


 その場に横になって反省をしていると、僕達と一緒に行動するはずだった兵士達の姿が見えたのでこの場所に来てもらった。


「お待たせいたしました。勇者様と一緒に戦わせて貰うなんて光栄です」

「そうだね、ただ初戦は終わったからさ、悪いんだけど休ませてくれないかな、もう疲れちゃってさ」

「えっもう戦闘をしたのですか」


 僕が指を差すと、丁度魔人が燃え尽きる瞬間だったらしく、一瞬だけ赤く輝いてから【炎闇】は消えていった。


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