第百十六話 僕とルートゥの合わせ技
罠を仕掛け終えた二人が神妙な顔をして戻って来た。
「予想よりも早くやって来きますよ、どうしますの、私達だけで戦うのかそれとも兵士を待ちましょうか」
此方に来ている魔人は地上部隊だけだが、その数は少なくとも千体はいるそうだ。
「罠は正常に作動するんだろ」
「当たり前でしょ、一つの罠を作るのに私の魔力を全てつぎ込んだんですからね」
「そんなにか……」
今は普通にしているという事は魔力回復薬を飲んだのだろう。それほど魔力を使ったという事はかなり大きくしたのだろう。
「あれが発動したら面白くなるな、お前の魔法も加わればかなりの被害を与えられるんじゃないか」
ルートゥの罠を見たエサイアが言うのなら決して過大評価では無いだろう。それなら僕達の行動は一つに絞られる。
「それなら僕達だけでいこうか」
「うっしゃぁ~」
◇
僕達はルートゥに仕掛けた罠の影響が届かないギリギリの場所で最後の打ち合わせをしてる。この人数で千体近い数の魔人と戦うなどど初体験なので、体の中の水分が無くなってしまったかのように喉が渇いて仕方がない。
「ごっ、あっあ~エレナそろそろお願い」
「そうだね、レーベンはちょっと離れていて」
エレナから溢れた光がみんなを包み込んで行く。これで暫くの間は小さな傷は簡単に治ってしまうし、本来なら即死してしまう攻撃も助かる可能性が生まれる。この魔法は帝国内にもエレナ以外に使える者はあまりいない。
ただし、僕にとってはその魔法は毒のような物で一度掛けられた時は二週間も地獄の苦しみを味わいながら寝込んでしまった。
僕は闇属性なだけであって、決して魔族では無いはずなのに……。
エレナの魔法が終わるとエレナは僕の側にいるがそれ以外は姿も見えない距離に散らばった。
「お客さんの登場だぞ」
魔道具を通してトビアスの声が聞こえてくる。
「私の罠が発動するまで我慢するのですよ、さぁ楽しくなってきましたね」
ただ予想外だったのは魔人の群れは間延びした形で迫って来ているので、全てが罠の中に入りきらなくなってしまった。
「気にするなよ、その為に俺達がいるんだからな、皆は指示を出すまで罠の中に入らないようにね」
「汚くて入れないさ」
トビアスは余計なひと言を付け加えてくるが、あえて無視していると先頭集団のアラクネの姿が見えてきて、その後ろには魔獣に乗ったオーガ、そして徒歩できている多種多様の魔人の姿が見える。
僕は杖を前に構えてルートゥの罠が発動されるのを待っている。なるべくなら大部分をこれで仕留めたいので必要以上に身体に力が入っていると、僕の背中にエレナがそっと手を置いてくれた。
「お兄ちゃんは大丈夫だよ」
「そうかな……」
「始まるわよ」
ルートゥの掛け声と共に魔人達の歩いている場所が身体ごとのみ込む水たまりへと変化していく、そして底からは氷の針が突き出してきて外皮が薄い魔人はそれだけで命を落としていく。
「それだけじゃ無いんだな……毒闇」
杖の先から現れた闇が水の中に入って行き、毒の水へと変えていく。
「うわぁぁぁぁぁl」
「黒く変色した水には触らないようにして早く此処から出るんだ」
汚染された水が見た目でバレてしまうのは残念だが、毒によって溶かされた肉体もそれ自体が毒となるので一気に水の中に広がって行く。
「みんな、水に入らないように注意してね」
「あぁ俺達は上がってくる奴を狙うか」
「水に入らなかった魔人はどうする?」
「先ずは私が近づけないようにいたしますわ」
エサイアとトビアスは陸に上がろうともがいている魔人に斬撃を飛ばしていき、ルートゥは罠にはまらなかった魔人を分断するように氷柱を出現させて分断する事にした。
「さぁ僕はもう少し頑張ろうかな……翼闇」
闇の翼を生やした僕は一気に空に舞い上がり、【炎闇】で次々と僕の支配下に置いた。ただ、小型の魔人には通用したが、オーガやサイクロプスには効かない様で闇が消されてしまう。
「かなり数は減ったけどこのままでは厳しいね、あの場所に集合しよう」
魔道具で指示を飛ばすと興奮しやすいエサイアも直ぐに移動を開始してくれたのが上から見えた。
「あっもう水が消えるのか、だったら目くらましをしようかな煙闇」
この辺りを一気に煙で覆い尽くし、ルートゥが作り出した水たまりが無くなった事を誤魔化した。僕の毒も自然に影響が出そうなので解除しておく。
しかし、視界を奪われた魔人達はやみくもに動く事が出来ず、足止めには成功したようだ。




