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第百十五話 僕は逃げるように

 僕は気が進まないので出来るだけ会うのを送らせたかったが、残念ながら仲間も含めて全員が会議室に集まるように連絡がきてしまった。


 仕方が無いんだけどさ、バザロフよりもこんな形でバルナバスに会いたは無かったな。


 会議室の中は付けがコの字型に並べられていて、中央はエゴン総司令官達の兵士の席になっている。そして左側に座った僕の正面には勇者バザロフ、その隣に聖騎士バルナバス。その隣に盾師シンク、風の魔法使いディアナ、そしてルートゥの代わりに入った水の魔法使いのルシアンが座っている。


「早速で悪いが、魔人共が迫っているのでこのまま対策会議に入らせてくれ」

「どうぞ、私達は馬車の中でゆっくりさせて貰いましたので気になさらないで下さい」


 バザロフは勇者らしく丁寧な口調で話してるが、バザロフやその仲間がルートゥに対して一瞬だけ蔑んだような目を向けたのは見間違いでは無いだろう。


 それにバルナバスは無表情でエレナをじっと見ている。この会議が終わったら後でちゃんと話さないと面倒な事になるかも知れない。


「……お~い、勇者レーベン君、ちゃんと聞いているのか、君達は何処に配置したいのかと聞いているんだがな」


 僕が気をとられている間にかなり話が進んでしまったらしく、僕はどう答えていいのか迷っていると代わりにトビアスが答えてくれた。


「私達の戦いは異質ですので砦の兵士との連携は難しいと思います。だからサンバル山の麓で待ち伏せをしようと思いますがどうでしょうか」

「君達だけで大丈夫かね、あそこは此処から離れているから万が一の事があった時に直ぐには助けに行けないぞ」


 参謀長官は籠城戦をしたいみたいだが、そうなるとバザロフと僕の戦い方の違いがバレてしまい、そうなると肩身が狭くなるかも知れない。


「いやっ戦う場所は勇者殿にお任せしよう。ただその人数だけで行かせる訳にはいかないから兵士を三十人ほど連れて行って貰う事になるがいいかな」


 三つの小隊が僕らと行動を共にするようだが、それ位は譲歩するしかない。


「僕の方はそれで結構です」

「そうか、それでバザロフの方はどうするんだ」


 わざとなのかエゴンはバザロフにはあえて勇者という称号を言わないでいる。


「私達は砦の中から戦おうと思うが、一つだけ条件を飲んでくれないか」

「その条件とは何だ」

「簡単な事ですよ、この中にいる者は私の指揮下に入って欲しいのです。下手に動かれてあそこの二の前になる事は勘弁して欲しいのでね」


 バザロフが言うあそことはサンカルット街での事に違いない。半年ほど前にあった事件で、勇者の行動に領主がかなり口を出してしまってせいで兵士達が混乱し、リザードマンの部隊は街の中にまで侵入してきてしまった。その事を言っている。



「それならば戦闘が始まったら全権を君に渡す。ただ副官をそちらの側に居させても良いかな」

「ええいいでしょうエゴン警備隊長、いや、今はエゴン総司令官でしたね」


 言葉の中に嫌味が含まれているのでバザロフもエゴンの事を良く思っていない様だ。微妙な空気が流れたが、そこに兵士が血相を変えて飛び込んできた。


「失礼します。魔人の軍勢が予想より早く此処の到着しそうです」

「そうか、上手く見張りと連携してくれ」

「残念ですが、もう見張とは連絡が取れません」


 斥候は本隊よりかなり先行しているのだろう。そうなると全く敵の様子が分からない。


「あのもう行っても良いですか、小隊を送るのであれば後から寄越して下さい。待っている時間はなさそうですので」

「そうだな、頼んだぞ」


 僕達はこの部屋を飛び出していくと、バルナバスの視線を感じるが、その事について話すのは全てが終わってからだ。



「ちょっとわざとらしかったかな」

「お兄ちゃんらしくないけどね、やる気のある勇者っぽくていいんじゃない」

「これから始まる事を考えると、戦いの事以外の事は話せないからな、だったらあの場に少しでも長くいたくなかったんだよ」


 山の麓に簡易的な隠れる場所を作ってその中で魔人が現れるのを待っているが、ここにどうやって三つの小隊が合流するのかは全く考えていない。


「待っているのもつまらないんで罠でも作ってきますわ」

「一人で行くなよ、俺も行くからよ」


 ルートゥと一緒にエサイアも魔人が来る方角へ行ってしまったが、斥候がいたとしても二人なら大丈夫だろう。


「お兄ちゃん、ルートゥはどうして向うを抜けたのかな」

「エレナに話していないのなら僕は知らないよ、聞きにくいしな」


 宰相の娘であるルートゥをバザロフがないがしろにする訳でもなく追い出したとは考えられない。向うのルートゥを見る目から想像するとルートゥが言い出した事に違いない。


 最初はルートゥと一緒に行動するのはどうかと思ったが、意外と僕達と上手くやっていると思う。


「ねぇバルナバスはどう思っているかな」

「エレナに対しては心配しているんじゃないか、ただ僕に対しては怒っているかもな」

「どうして?」

「治療院にいたエレナを担ぎ出したんだからな」


 バルナバスは知らないだろうが、エレナは決して劣等生になったのではなく、あそこに疑問を感じたからわざと魔力を隠して実力を過小評価させていた。もしそれをしなければ卒業したら聖女としてサンベルノ教に取り込まれていたに違いない。


 まぁ僕が知ったのは勇者になってから何だけどね。

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