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第百十四話 僕とエゴンの再会

 気力も体力も回復した僕達は早朝に出発しその日の夕方前にはヤザニク砦に到着する事が出来た。


「勇者様は総司令が待っておりますのでこちらへ、皆さんは別室にご案内いたします」


 到着後すぐに司令室に連れて行かれると、その中には懐かしい顔のエゴンが笑顔で迎えてくれた。


「まさかあの時の子供が勇者になるとはな、一緒に戦えるなんて夢のようだ」

「僕もまさか勇者になる何て思いませんでしたからね、そうだっもう一人の勇者は誰が来るんですか」


 僕はその勇者と連携をしなくてはいけないので誰なのか気になるので尋ねたが、エゴンは急に苦い物でも口に入れたのかのような顔になった。


「まぁなぁあのバザロフだよ、あいつらは明日の早朝が到着予定になっている。バザロフの奴は部下の間ではかなり人気があるからな、そういった意味では有難いんだが」


 世間一般では勇者バザロフが一番人気があり、逆に人気が無いのは僕だ。まだ派手な実績が無いのだから仕方のない事だ。


 上手くいくかな、バザロフ達に会いたくないのは僕だけじゃないんだよな、せめて戦場では無い場所で一度会っておくべきだったな。


 エレナが僕のパーティに入っているという事はバルナバスは知っていると思う。悪い事では無いのだけれども、もっと落ち着いた場所で再会したかった。それにルートゥも向こうと何があったのか未だに聞いていないが、どうなんだろう。


「総司令緊急事態です。空から魔人が攻めて来ています」

「何だと、レーベン、早速だがいけるか」

「その為に来たので大丈夫です」


 偵察隊が遥か彼方に見えた魔人の接近を知らせに戻って来たが、砦の上に上がった僕の目にも、兵士の目にもまだその姿を見つけられないまま陽が沈もうとしている。


 兵士達の緊張が伝わって来るので指輪を通して砦にいる全兵士に聞こえるように声を張り上げた。


「偵察隊によると百体程しかいないというので向こうも様子見だろう。僕達の実力も君達は知らないと思うから今回はただ見ているだけでいい」


 向こうは闇夜に紛れて何かをしてくるのだろうが、僕は目に魔力を流せば昼間と全く変わらないように見えるので闇討ちは無意味な行動に過ぎない。


「僕が合図するからエレナは指示を出した場所に光を当ててくれ」

「お兄ちゃん全体じゃなくていいの」

「僕の魔法はまだ見せない方が良いと思うんだ。ルートゥは綺麗に倒すからな、そっちを見せた方がいいだろう」


 キメラの上に乗っているオークの部隊はわざとなのか静かに近づこうともしない。


「ぐげぇ、ぐぅわぁ」


 暗闇の中をキメラの声が砦に届き始めたので、隠れた場所から闇夜を見上げている兵士達の恐怖に満ちた荒い息使いが聞こえてくる。


「さて、あいつらに効くかな……毒闇」


 闇から逃れた魔人は仲間に任せるが、どれぐらい残るか少し楽しみでもある。


「ぐぎゃ~」

「おぶっ」


 魔人達の悲痛な叫び声だけが響き渡り、一体も僕の【毒闇】をかわす魔族はいなかった。


「随分と楽な相手だったな、エレナ悪いけど空を照らして兵士達に見せて手的がいいない事を見せてあげて」


 魔族の声が全しなくなった静かな空をエレナが明るく照らすがと、兵士達はお互いに顔を見合わせながら不思議そうにしている。


「全て倒し終わりましたんで見張り以外は明日の備えましょうか」

「えっ勇者様……」

「ただの雑魚でしたよ」

「えっそんな……」


 魔族は簡単には倒せないと思い込んでいる兵士には信じられない様だが、それは過大評価だ。もしその通りなら人魔大戦のあった昔に人間族は滅んでいる。


「まぁ確かに出来過ぎだがな、決して勝てない相手じゃないんだよ、さぁ寝ようぜ」


 トビアスが僕の指輪に近づき、その言葉を言った後で部屋に引き上げていく。早く兵士達に下に降りて欲しいのは理由があって、今は風向きが追い風だから良いが、これが反対になってしまったら例の匂いが漂ってくる。


「匂いはどうにもならないからな」

「エレナちゃんがさりげなく風を送ってくれるから何とかなるさ」


 エサイアは笑いながら肩を叩いて来るが、エレナには少し悪い事をしてしまった。


「助かるよエレナ」

「気にしないでよ、少ししか魔力を流さないしね、それより明日はあの連中が来るんだよね」

「あぁまぁな」

「私も嫌ですわ、あの男と一緒に居たく無いから仲間を辞めたのにまた一緒に戦うなんて、あ~いやだ」


 エレナとルートゥは文句を言いながら下に降りて行ったが、エサイアは何故かまだ闇夜を見ている。


「どうしたんだ。気配はないから大丈夫だよ」

「そうじゃないんだ。お前もあそこ迄気にしなくていいんじゃないか、別に人間相手に使ったんじゃないからな」 

「まぁそうだけどさ……」


 まだ陽も上がりきっていない早朝に、砦中に広がる歓声の渦が巻き起こっている。いよいよバザロフ一行が到着したのだろう。

 

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