第百十一話 僕は再び王都に
僕はミフィス街を去る前にアールシュ様の横に立って、恥ずかしさを必死に堪えながら街の人達に対してちょっとした挨拶をする羽目になってしまった。
僕の見た目でがっかりされないように顔の大部分が隠れている仮面を付けているので、僕の素顔を知らない人から見たら子供には見えないだろう。
背の低さは勇者の中でも一番低いはずだが、そこは仕方のない事だ。
アールシュ様が決めた後継者として僕がこの場にいるので、誰もが熱狂的に応援してくれるのでその歓声を聞くと指輪から貰える力とは別の力が身体の中に入って来る。
「さぁ王都に出発するぞ、この歓声を忘れるなよ」
「はい」
ドラゴンゾンビの背中に乗り込むのは僕とアールシュ様だけではなく、トビアスが僕の仲間として乗り込んでいる。僕が推薦をした訳では無く、アールシュ様がトビアスをパーティメンバーとして決めてきたからだ。
「まさかアールシュ様がトビアスを知っているとは思いませんでしたよ」
「はぁ? お前がこやつと一緒に赤竜を討伐したんだろうが」
「お前さぁ、その質問はないな」
僕は自分が勇者になる事で精一杯なのでパーティメンバーの事迄は頭に入っていなかったが、王都に着いたらその事を考えないといけない。
「そうじゃ、お前の仲間になる者はもう一人決まっているからの、楽しみにするんだ」
楽しみか……確かバザロフが仲間を決める時には意見を言えたと思うのにな……言えないけど。
「もうすぐ王都だぞ、仮面を被るんだ」
「そうですね」
勇者の顔が見えないのは少しおかしいかも知れないが、この指輪が偽物では無いと証明してくれる。
僕は指輪に魔力を送り空に向けて光を出す事で勇者の到来を衛兵に知らせた。これをしなければドラゴンゾンビになれていない王都は混乱してしてしまうだろう。
さて、教会はどう出るかな、それによっては短い勇者生活かも知れないな。
◇
王宮の前に舞い降りると、トビアス、アールシュ様、そして僕の順番に飛び降りていく。衛兵はこの僕の仮面に驚いたようだがそれでも敬礼をして迎え入れてくれた。
すると王宮の入口にいた厳かなローブを身に纏った精悍な顔をした中年の男性がわざわざ出迎えてくれる。
「お待ちしておりました。そのお方が新たな勇者様でございますね、皇帝とこれからお供をする私の娘も中で待っております」
女性が仲間になるとは思ってもいなかったので、小声でトビアスに話し掛ける。
「あのさ、どんな女性なのか知ってる?」
「お前と一緒にいるんだから知る訳無いだろ、いいから黙ってろよ、もうどうにもならないさ」
王宮に舞い降りたので薄々気が付いていたが、もう謁見が始まってしまう様だ。あまり掴めない皇帝なので出来る事なら会いたいとは思わないが、それは許されないだろう。
◇
王の間に入ると、玉座を見上げるような形で髪の長い女性の後姿が見える。彼女が僕の仲間になる事は決まっているが、出来る事なら違うと言って欲しい。
壁沿いには沢山の兵士や内政官が並んでいたが、全てが僕の事を見ているので緊張が増してくるが、その中から一人が歩いて来て僕の手をしっかりと握りしめてきた。
「貴方がこんなに立派になる何て思いませんでした」
涙を浮かべているマザーを見ると、仮面の下で僕まで涙が込み上げてくる。僕はどうしていいか分からずただ何度も頭を下げた。
「有難うございます。何て言って良いのか分かりません」
「けど、本当にごめんなさい。教会は貴方が勇者になる事をまだ認めません。貴方はアールシュ様と皇帝の後押しによって勇者となるのです」
それは教会側からの支援は僕だけにない事を意味していたが、どの街に行ってもギルドと同じようにサンベルノ教にも近づくつもりは無いと考えていたのでさほど影響は無いだろう。
「レーベン、こっちに来なさい。彼女が二人目の仲間だぞ」
アールシュ様の隣にいるのはやはり宰相の娘でもあり、勇者バザロフの仲間でもあるルートゥだった。
「今日から仲間となるのでお願いしますね」
「あのさ、バザロフの仲間だよね、兼任何て出来るのかい」
「もう仲間ではないので気にしなくてもよろしいですよ、あそことは縁を切らせて貰いましたから」
そんあ我儘が言えるのは宰相の娘だからだろう。僕はちょっとこのルートゥが苦手だが、断る事は許されないと思う。
「おいおい、こんな可愛い女性と知り合いだったのか、いやぁ仲間になれて嬉しいよ」
「私も獣人族の方と一緒に行動出来るなんて光栄ですわ、よろしくお願いしますね」
貴族は獣人族を下に見ているはずなのだが、ルートゥはそんな素振りを見せずに親し気に笑顔を見せてトビアスと握手を交わしている。
「アールシュ様、これで仲間は揃ったのでしょうか」
「それなんだが三人だと色々不便だからな、出来れば選抜会を開きたいんだが……お前は良い人物を知らんか?」
「僕の交流関係は狭いので」
二人以外の仲間は僕が決めてしまって良いそうだが、僕にはそのツテは無い。
ドンドンドンドンドンドンドン
太鼓の音が鳴り響き、全員が玉座の奥に注目するとゆっくりと皇帝が歩いてきた。




