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第百九話 僕が勇者?

 これからもいつも通りに過ごそうと思ったが翌朝になると状況が一変してしまう。勝手にギルド長と領主であるアールシュが連名で今回の事を街中の掲示板に張り出してしまったからだ。


 内容は討伐に成功したパーティとして僕達の名前が書かれているし、どうやって倒したのかも事細かに書いてある。ただ僕の魔法についてはかなり柔らかくしてあるので多少の嘘は混ざっているが全体的には良い物語に仕上がっていた。


 その掲示板を見ながら茫然と立っていると、トビアスが近寄ってきた。


「最大の功労者はお前にちゃんとなっているな……これでお前が何者でも文句を言う奴はいないだろう」

「何でこんな事に……余計な事を書かなくても良かったじゃないか」


 周りには聞こえない声でトビアスに文句を言うと、微笑みを浮かべたトビアスが人込みから僕を連れ出していく。


「文句を言うなよ、確かにギルドに報告をしたのは俺だけど、これをしたのは俺じゃないんだからな」

「それは分かってるけどさ、最後の一文が余計なんだよな」


【私の最後の弟子であり唯一の私の後継者となるレーベンの初仕事だ。   アールシュ】


 ……何でこうなってしまったのだろうか。

 ……これでは勇者を引き継ぐ事になるじゃないか。

 ……嬉しいけど僕は闇属性なんだよ。

 ……嬉しいけど僕を教会は認めないだろう。

 ……嬉しいけれど僕の姿はこれなんだよ。


「一先ず聞きに行った方が良いんじゃないか」

「そうだね」


 僕とトビアスはそのままアールシュ様に会いに行ったが、残念ながらもう馬車で何処かに行ってしまったそうだ。

 僕には目的地が分かるので今すぐに追いかければ追いつくと思うが、僕宛てに残された伝言はただ「この街で待つように」だった。


 クルナ村に行ってしまったのなら簡単に戻ってこれる距離では無いのでどうせならその間にこの騒ぎが終わって欲しい。幸いにも僕の顔を知っている者はこの街では極僅かなのでひっそりと暮らせば何とかなると僕は信じたい。


 それに勇者候補はアールシュ様が決める事は出来ても、皇帝や教会の了承が得られなければ決定にはならない。勇者なりたくはないかと聞かれたら少し未練があるに決まっているが、この先の事を考えるとその気持ちもどんどん薄れていく。


 ◇


 街中で僕が何処の何者なのか探していたが、僕は工房に籠ってただひたすら仕事をしている。


 ミドハや他の職人から勇者になるのかと何度も聞かれたが、僕は「全く知りません」としか答えず、更にずっとわざと不機嫌な顔をしてそれ以外は何も話さなかったので僕に近づいて来る者はかなり限られた。


 街の人達も十日もすると僕の事を探す者は数少なくなり、本当にレーベンがいるのか、もしかしたらアールシュ様がレーベンなのかとまで変な方向に噂話が流れているそうだ。


 そして一ヶ月もするとこの話をする者はすっかりいなくなってしまった。


「ようやく落ち着いたわね、長かったねぇ」

「そうだね、仕方のない事だけどラウラ達も有名人になったな」


 冒険者である三人はかなりの精巧な似顔絵をギルドに貼られてしまったので、冒険者からその時の状況や僕の事に付いて色々聞かれまくってしまい辟易していた。


「まぁいいけどね、もうそろそろ村に帰ろうかな」

「どうやって帰るんだ。良かったら送ろうか?」

「いいわよ、お金もあるんだしちゃんと安全な方法で帰るわよ。たださ、アールシュ様が何をしに行ったのかが気になるからもう少しこの街にいるけどね」


 どうせだったらアールシュ様がクルナ村に行くときに一緒に行ってくれたら良かったのにと思うが……言える訳ないよな。


 そして更に半月が過ぎた頃、再び街にドラゴンゾンビが姿を見せたが、一体では無く二体が僕達の家の前に舞い降りた。


 その背中にはアリアナさんとアールシュ様が乗っていて、僕が外に出るとアールシュ様は凄くご機嫌な様子で背中から飛び降りた。


「どうだ、儂はネクロマンサーでは無いのに上手に扱えているだろ、まぁ時間は掛かってしまったがいい物を手に入れたわい」

「あのねぇ私が苦労したおかげでしょ、もっと感謝しなさいよ」

「何度もお礼を言ったじゃないか、それにどれだの贈り物を渡したと思っているんだ」


 アールシュ様が直ぐにクルナ村に行ってしまった理由は何となく分かったけど、ここにアリアナさんがいる理由が分からない。


「あの……」

「何も言うな、この骨の料金はちゃんと払うからな、まさか逆らう訳じゃないよな」


 いくら何でも僕は逆らうつもりも無いし、それはトビアスも同じだろう。報酬だってギルドや帝国から貰っているのでそれを自分の物に出来るのかはアールシュ様が交渉すればいいだけだ。



「それにしてもあんたは上手に骨を残したもんだね。魔国にいった良い骨を持ちかえって来るんだよ」

「えっ僕は魔国に何て行きませんけど」


 僕の言葉にアリアナさんは不思議そうな顔で見つめてくる。


「今更何を言っているんだい。もう村ではあんたが勇者になったと大騒ぎしているよ」

「お前は掲示板を見なかったのか、儂の後継者だと知らせただろ」


 あれが正式なものだとは僕に分かるはずも無いのだが、この光景をみた近所の人がこの事を一気に広めてしまい。僕の正体もバレてしまう事になった。

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