第百八話 僕達の評価
骨だらけのせいなのか、それともドラゴンゾンビ特有の魔法のせいなのか知らないが、音もなく中庭に舞い降りた。
まだ昼間なのでそれなりに人がいるせいか、予想通りの悲鳴や叫び声があちこちから聞こえてくる。
「初めて見る訳じゃないのにやはり駄目だったか」
「そうみたいね」
今更ながら大胆な事をしてしまったかのように思え、僕だけ街の外でドラゴンゾンビと共に待っていれば良かったと思い始めたが、今更反省をしたところで手遅れだ。
「これは見事だな、まさか赤竜をドラゴンゾンビに代えて持ち帰るとは面白い事をしたもんだ」
窓から飛び降りてきたアールシュ様の顔は喜び満ち溢れ、子供の様にドラゴンゾンビに抱きついている。
「魔石のおかげですよ、ただちょっと変な感覚があるので少しだけ心配なんですが」
その言葉でアールシュ様はドラゴンゾンビを細かく見てくれている。僕達や領主館にいた人たちもただ見守る事しか出来ない。
「ほぅこれか、ちょっと外してみようかの」
魔石に手を置いてから力まかせに魔石を外してしまった。
「えっそんな強引な外し方をしなくても……」
ボゴッ
変な音がしたと思ったら魔石が骨と共に外れ、今までちゃんとしていた骨がバラバラになって崩れてしまった。
「まぁそうじゃろうな、さてもう一度戻して見なさい」
投げ渡された魔石にもう一度魔力を込めて骨の中央に投げ入れるが、そこから現れたのはドラゴンゾンビではではなく、多少大きくなったいつものスケルトンだった。
「あれっ上手くいきませんね、だったら骨に戻して売った方がいいですかね」
「少し待ちなさい。アリアナ殿に連絡をするから答えが出るまで骨は売らないようにな」
「それでは皮は良いですよね、ビテックやトビアには必要みたいなので」
「あぁ皮は好きにしなさい」
アールシュ様は皮には興味はなく、ただのスケルトンに成り下がってしまった事がどうしても気になっているようだ。
トビアス達は直ぐにギルドに向かう為に借りた馬車の中に皮を詰め込んでから出発しようとするが、僕はギルドに行くつもりは全くない。
「何してんのよ、早く乗りなさいよ」
「良いよ僕は、冒険者じゃないからね」
「それならギルドで交渉してやるよ、ドラゴンバスター何だからそれなりの階級から始められるかも知れないぞ」
ラウラ達はしきりとギルドに行こうと誘ってくるが、僕には興味が無い事だし、それについてアールシュ様は口を挟んでこない。
「本当にいいのね」
「あぁ行ってきなよ」
僕の考えが変わらないと思い諦めたのか、三人だけでギルドに向かって行った。
「その答えで後悔はしないか」
「僕には冒険者は魅力的では無いですからね、何も感じませんよ」
アールシュ様の自室で今回の討伐の詳しい話を報告すると、アールシュ様は余計な口を挟まず黙って話を聞いてくれたが、兵士がした行動を告げるとその顔には苦汁が浮かんでいる。
「馬鹿な連中だな、それで名前は何と言っていたのだ」
「いや、まぁそうですね……」
最初は告げ口するみたいで少し気が引けたが、誤魔化す訳にはいかないのでトビアスが言った名前で憶えているの者は全て言ってしまった。
「全く情けない連中だ。そいつらの事は知っているからちゃんとお仕置きをしておかないとな」
アールシュ様は勇者を引退したが、この街の領主でもあり侯爵でもあるので帝国での権力はまだまだ高そうだ。僕が告げ口をしてしまった事になってしまったが、自分達でちゃんと責任を取って、決して僕に逆恨みをしないでほしい。
◇
暫くして三人が戻って来きたが、この私室に入って来るのではなく、玄関の外で待っているらしい。僕が此処にいるのだから遠慮はせずにここに来ればいいと思ってしまうが、やはり入りにくいのだろう。
「今日は疲れたであろう。もうゆっくりしなさい」
「それでは失礼いたします」
しかし、居るはずだった場所にはトビアスの姿もビテックの姿も無く、ただラウラしかいなかった。
「あれっ二人は何処に行ったんだ」
「先に店に行って席を確保しに行ったわよ、この場所は格式が高すぎるってさ、それよりビテックも私も蒼玉級に上がれるところだったんだ」
「その言い方は……どういう事?」
ギルドからは称号と共に階級を上げる事を提案してきたがラウラとビテックはその申し出を断ってしまったそうだ。
凄く勿体ないのではと思ってしまうが。ビテックは蒼玉級だと依頼の危険度が格段と上がるし、ドラゴンバスターの称号が今後の足かせにしかないと思ったそうだ。ラウラも同じような理由である。
ただビテックはちゃんと蒼玉級となり称号貰っている。そしてトビアスの口から詳細な討伐内容をギルドに報告すると、僕を直ぐにでも藍玉級として迎え入れてくれるそうだが、条件が蒼より一つしたの藍なら僕には何の魅力もない。




